さなえさんと別れて、二人は公園の遊び場に行きました。
公園は、家族連れや子どもたちの楽しい声でいっぱいです。あたりを見回すと、お年寄りや若い人たちも、散歩したり、ベンチに腰かけておしゃべりや花だんの花に見入ったりしています。たっくんは、すべり台を見つけてかけだしました。
「もう、たっくんたら、私をおいて行っちゃうんだから」
ちいちゃんも、車いすをこいで、すべり台の方に向かいました。この公園は、車いすの人でも自由に歩き回れるバリアフリーの公園なのです。
すべり下りてきたたっくんは、少し照れくさそうに、
「ちいちゃん、ごめん、ごめん」
とあやまりながら、
「ここのすべり台の上、まるでとりでのようでかっこいいね」
と、上の方を指さします。
「たっくん、わたしブランコ乗りたいな。さあ、行こう」
ちいちゃんは、再び車いすをこぎだしました。あわてて、たっくんが後ろからついていきます。
「ちいちゃん、車いすじゃ、ブランコなんて乗れないよ」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。たっくん、だれか近くにいる大人の人に、ちょっと手助けしてくれませんかって、たのんでみてくれない?」
ちいちゃんが、ブランコの前で待っていると、たっくんが若い男の人を連れて来ました。
「すいません。わたしをだきあげて、このブランコに乗せてくれませんか?」
ちいちゃんが、その人にお願いしました。
「いいよ」
明るい笑顔の若い人が、ちいちゃんを軽々とだきあげ、ブランコに乗せてくれました。そして、ブランコについているシートベルトを、ちいちゃんの腰にまいてくれました。
「さあ、押してあげなよ」
若い男の人が、たっくんをうながします。たっくんは、おそるおそる、ブランコを押し始めました。
「たっくん、もっと強く押してもだいじょうぶよ」
ブランコが大きくゆれはじめました。ちいちゃんのうれしそうな顔を見て、たっくんも若い男の人も、なんだか、自分もブランコにゆられているような気持ちになりました。
「ありがとうございました」
二人は、若い男の人にお礼を言って、別れました。
「次は砂場に行こう」
ちいちゃんが、ぐいぐい車いすをこぎだします。
「ちいちゃん、まさか、砂場の上に降ろしてくれって言うんじゃないだろうな。ぼく一人じゃ無理だよ。また、大人の人探して来ようか?」
かけ出そうとするたっくんを押しとどめて、
「車いすから降りなくても遊べるの」
そう言うと、ちいちゃんはスロープを下りて、たっくんの立っている場所と反対の砂場に、顔を出しました。
「えっ、どうなってるの?」
たっくんが、砂場を横切ってのぞいて見ると、車いすの入る穴が砂場の下に開いていて、上半身をのばして砂で遊べるしかけになっていたのです。たっくんは、目をぱちくりさせました。
「おもしろい公園だな。車いすでも遊べる公園って、だれでも遊べるってことだよね。だれだってみんな、遊びは大好きだもんね」
二人は、砂でだれもが遊べる楽しい遊び場作りを始めました。小さい子が数人、いつのまにか二人の遊びの仲間に加わって、砂場はにぎやかになってきました。そばで、そのようすを、若いお父さんとお母さんが、楽しそうにのぞきこんでいます。砂場には、子どもたちの夢が、どんどん広がっていきました。
「じゃ、この続きはみんなで作ってね」
小さい子どもたちに手をふって、二人は砂場をあとにしました。
「たっくん、池に行こう」
公園は、まるでちいちゃんちのお庭のようです。どんどんこいでいくと、もう池でした。
水のふき出し口が、腰の高さくらいのところにあって、水は底の浅い池にたまります。たっくんは、信じられないという顔つきで、またも目をぱちくり。なんと車いすのまま、ちいちゃんが池に入っていくではありませんか。流れてくる水を手ですくいながら、水しぶきを浴びて、ちいちゃんは遊びに夢中です。
だれでも中に入って水遊びのできる池…、ふき出し流れてくる水に、車いすに乗ったままさわれるように工夫されている池…、なんてすばらしいのでしょう。たっくんも、水の流れに手を入れてみました。冷たくていい気持ちです。
「ほんとに楽しい公園だね。それに、ゴミが一つも落ちていないんだよね。とっても気持ちがよくって、また来て遊びたいってみんな思っちゃうよね」
「そういうところも、この公園のいいところなのよ。えっへん」
ちいちゃんは、少し気どって言いました。
「自分の公園でもないのに、そんなにいばるなよ」
と、たっくんは、わざとおこったふりをして、プイと顔を横に向けました。
「でも、自分の公園だと思うと、大切に使いたいという気持ちが、自然とわいてくるものなのよ。たっくんも、そう思わない?」
ちいちゃんは、たっくんにたずねました。
「そうだね。ぼくもこんな公園なら大切にしたいと思うよ。みんなとても親切で、すぐ手を貸してくれたり、仲よく遊んでくれたりして、本当にやさしい気持ちになれるところだよね」 |