レジをすませて外に出ると、ちいちゃんが、ガラスのドアにはってあるシールを指さしました。 「これ、なんだか分かる?」 シールには、犬のマークが書いてありました。 「そうか。それであの人、犬をお店の中に連れて来ていたんだ。このマークがあると、いいよっていう印なんだね。えっと、あの犬、なんて言ったっけ…?」 「“盲導犬”でしょ。目の見えない人たちが、自分の目の代わりのようにして、一緒に生活しているんだわ。おりこうな犬」 「そうそう、盲導犬。初めて見た。わー、残念。さっき会ったとき、びっくりしちゃって、何もできなかったけど、なでなでしたかったな。学校でじまんできたのに」 「そんなことをしちゃいけないのよ。かわいいっていう気持ちは分かるけど、盲導犬がみんなにかわいいってなでられたら、どんなことになるか想像してごらんなさいよ」 「えっ。うーん。だって、なでなでするのがどうしていけないのか、分かんないよ」 「じゃ、今度会うときまでの宿題。しっかり考えてね」 盲導犬が周りの人にかわいがられると、仕事に集中できなくなってしまいます。それは、ご主人である目の見えない人を不安にしたり、その人の命令をきかなくなって、ときには命もあやうくしてしまうのです。 駐車場に、ワゴン車がバックで入って来ました。車が止まり、運転手のおじさんが降りて、 「こんにちは」 と二人に声をかけ、後ろのドアを開けました。中には、車いすを使ったお年寄りが数人います。 「さぁ着いたよ。今台を降ろすから、待っててね」 おじさんは車の後ろにまわって、たたまれた台を降ろし、その上に車いすを乗せました。 「いいかい」 と言って、スイッチを入れると、車いすごと台が下がってきて、地面と同じ高さになりました。 「どうもありがとう」 車いすをこいで、おじいちゃんが、店の中に入って行きました。 たっくんは、またまた目を丸くしてしまいました。 「たっくん、この車はリフト車っていうの。車いすのままで乗ることができるのよ。見たの初めて?」 「うん。でも、すごいね。これならかんたんにどこでも行けるね。だけど、この人たち、どこから来たの?」 「特別養護老人ホームの人たちなの。今日はまちに買物に来たんだわ」 「えっ、老人ホームのお年寄り?ぼくも学校で老人ホームに行ったことあるけど、外に出て買物なんかしてなかったよ。みんなふだんはベッドにいて、車いすを使って散歩に行くぐらいだったよ」 「施設にいても、家にいても、体に障害があってもなくても、みんな、まちに出たいものなのよ。私も、ずっと家にいたら、たくさんの人と知りあいになることなんか、とてもできないわ。一人で家に閉じこもっている私を考えたら、ぞっとするわ。みんながまちに出て、図書館に行ったり、公園で遊んだり、映画を見たり、おいしいもの食べたり、買物したりするのは、当たり前のことなのよね」 たっくんは、地面に降りてくる車いすのお年寄りを見ながら、この人たちにも、ちいちゃんと同じように、まちを自由に歩くことができたらきっと楽しいだろうな、と思いました。そして、ちいちゃんの言った“当たり前のこと”ってなんだろうと、考え始めたのでした。 「なにをボーっとしてるのよ。もう帰りましょう。お母さんがおいしいおやつを作って待ってるわ」 ちいちゃんの明るい声がしました。 |