二人は図書館に着きました。 「うわぁ、大きな建物だね」 おどろくたっくんをしりめに、ちいちゃんはスイスイ車いすを進めていきます。図書館の入口までは、ゆるやかなスロープになっているのです。 「ちいちゃん、ぼくが押してあげるって」 自動ドアは、スーッと開きました。このまちの図書館が初めてのたっくんは、目の前の広い空間にちょっととまどいました。だって、いつも見ている学校の図書室は、本だなと本でいっぱいだったのです。さあ、たっくんは、広い広い図書館で、どんな発見をするのでしょう。 「こんにちは。ちいちゃん」 小さな子どもを連れた女の人とすれちがいました。 「こんにちは」 二人は声をそろえてあいさつを返しました。 「今日はちいちゃんの読み聞かせの日だったのね。用事があって、もう帰らなくちゃいけないの。残念だわ」 「お姉ちゃん、またね」 絵本をかかえた子が言いました。 たっくんは、通路のはばに目をとめました。ちいちゃんの車いすとたっくんと、子どもを連れた女の人が、ならんでゆったり通れるくらいあるのです。これくらいのはばだったら、ほかの人にぶつからないで車いすを押せそうです。 「さようなら」 ちいちゃんは、帰っていく二人に小さく手をふりました。 通路のかべには、いろいろな案内がありました。館内案内図や、読み聞かせの案内などです。そのほかに、大きな絵なんかもかかっています。 マークの表示もいくつかありました。右に入った通路の奥に、トイレのマークがあります。初めて来たたっくんにも、トイレの位置がすぐに分かりました。男の人、女の人、そして車いすのマークがついています。 「そうか、車いすで入れるトイレがなくちゃ大変だよね。でも待てよ。ちいちゃんは一人でトイレに入れるのかな?」 考えこむたっくんに、ちいちゃんが言いました。 「たっくん、トイレのほうへ押して行ってくれる?」 たっくんは、広い通路を右側に大きく回りながら、車いすを押し始めました。 一番奥に、車いすマークのトイレがありました。自動ドアのようです。ちいちゃんが手を伸ばした先に、ボタンがいくつかありました。『開』と言う文字のついたボタンを押すと、トイレのドアが開き、パッと内側が明るくなりました。ドアのボタンを押すと、電気も同時につくのです。 「車いすマークのトイレの中がどんなふうになっているか、一度見てみましょうよ」 と、ちいちゃんが言いました。たっくんは、うんとうなずきました。 トイレの中は、車いすで楽に動けるくらいの広さでした。たっくんがいつも使うトイレよりずいぶん広い感じです。ふたのない洋式の便器があり、周りに手すりがついていました。手のとどくところに、ペーパーホルダーや、水を流すボタンなどがついています。水を流すボタンは、くつべらのような形のふたの下にあって、そのふたを押すと、あまり力を入れずにボタンが押せるのです。洗面所もついていました。 「たっくん、私、手を洗いたいわ」 たっくんは、車いすを洗面所にすっと押し入れました。車いすのちいちゃんのちょうどいい高さに洗面台があって、水を流すレバーやせっけんも手のとどく位置にあります。 「これなら安心だね」 たっくんは言いました。洗面所の鏡にうつったちいちゃんの顔が、笑っています。たっくんも笑顔を返しました。 かべにベビーシートがありました。車いすを使う人だけでなく、赤ちゃん連れのお母さんやお父さん、おなかに赤ちゃんがいる女の人、お年寄り、そしてたっくんだって使いやすそうです。 トイレから出るのに『開』のボタンを押したたっくんは、非常呼び出し用のボタンに気づきました。そういえば便器の周りにもあります。何かあった時のために、このボタンがあるのでしょう。 |