「なかよし公園に行ってみましょうよ」
図書館を出てすぐ、ちいちゃんがたっくんをさそいました。
公園に向かって行くと、女の人がさかんに手招きをします。近づくと、手帳を差し出し、お願いですと手を合わせます。たっくんは、なんのことか、さっぱりわけが分かりません。
「たっくん、そこの公衆電話から、この人の手帳を見て電話をかけてあげて」
「えっ」
たっくんは、びっくりして女の人の顔を見ました。女の人は、手帳を開いて、指をさしながら、書いてあるとおりに相手に伝えてほしいと、たっくんにお願いをしています。
ちいちゃんは、どぎまぎするたっくんに、
「この人、聞こえないのよ」
と、自分の耳を指さして言いました。たっくんは、やっと分かりました。
テレホンカードと手帳を受け取って、電話をかけました。
「ぼくは、さなえさんという人にたのまれて電話をかけています」
それから、たっくんは、手帳に書いてあるとおりのことを相手に伝えました。
「分かりました。さなえさんに分かったと伝えてくださいね。ぼく、本当にありがとう。とても助かりました」
たっくんは、受話器を置くと、なんだか体中が熱くなってきて、とてもあったかい気持ちになりました。心配そうにようすを見ていたさなえさんに、
「分かりましたって、言っていたよ」
と、伝えました。
「あっ、いっけない!耳が…」
でもたっくんの顔を見て、さなえさんはにこっと笑い、右手で左手の甲に大根を切るようなしぐさをしました。たっくんは、また困った顔になりました。
「ありがとうって、手話でお礼を言っているのよ」
「へぇ、音が聞こえなくても、ちゃんとお話できるんだ」
ぺこっと頭を下げたたっくんが、とてもユーモラスだったので、ちいちゃんもさなえさんも、つい笑ってしまいました。
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