道東勤医協釧路協立病院 桜ヶ岡医院院長
加藤 萌 医師プロフィール
出身
長崎県長崎市
略歴
- 2013年 長崎大学医学部を卒業
- 2013年 長崎県上五島病院、長崎医療センター 初期研修
- 2015年 北海道家庭医療学センター 後期研修(勤医協中央病院総合診療科、上川医療センター、帯広協会病院総合診療科、栄町ファミリークリニック)
- 2018年 北海道家庭医療学センター フェローシップ(栄町ファミリークリニック)
- 2020年 道東勤労者医療協会(桜ヶ岡医院、釧路協立病院内科総合診療科)
資格
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医
趣味
仕事、温泉宿
座右の銘・ モットー
「患者さんに幸せになっていただくには、あなた自身が毎日幸せを感じられることです」(初期研修医1年目として働く初日、当時の看護部長にいただいた言葉)
釧路圏域の医療・介護・保健・福祉の現状
複数の急性期病院、地域包括ケア病棟、療養型病院、無床診療所が揃っており、医療アクセスが決して悪いわけではないですが、少子高齢化が進んでいる地域(桜ヶ岡医院のある東部南地区は高齢化率45%ほど)ですので入院を取り巻く環境は飽和しがちです。
施設、包括支援センター、居宅介護事業所など介護、福祉事業所と一層強い連携が求められています。 こうした背景から分け隔てなく対応できる総合診療医が求められている地域と感じます。
総合診療医を目指したきっかけ
学生時代の患者経験と初期研修を通して、地域の患者さんのために全力を尽くす指導医たちとの出会いがあり、総合診療医・家庭医を目指しました。
もともと学ぶことが好きだったので、それを誰かのためや、社会のために貢献できる職業がいいと思っていました。臓器別の科にとらわれず、患者さんが何でも相談できる医者になりたいというイメージになったのは、患者経験もした学生の頃だったと思います。
私の出身、長崎県は日本で一番離島の多い地域で、離島における医療の役割が大きい場所です。初期研修では、離島に研修できるプログラムを選びました。
離島の病院も、高度な医療を住民の方にも求められて、いろいろ少ない資源の中で、みんな頑張っています。本土の医療機関で医療行為を受けるには、ヘリコプターで搬送して、患者さんも慣れた場所を離れての生活になりますので、尽力が必要になります。先生も24時間365日、大きな病気の人がいるとみんなで立ち上がって治療していくという背中を見て、自分もそのように役に立ちたいという気持ちが大きくなりました。
北海道で働くことを決断した理由
北海道は、私の研修当時から総合診療・家庭医療の研修が充実していました。長崎から県外に出て勉強し、長崎に帰って活躍されている先輩たちの姿をみて、最初は初期研修が終わったら長崎に戻ろうと思っていました。しかし、北海道であれば研修後も充実した学びが得られそうだと思い、しっかり勉強したいという気持ちで決心をつけ、移住を決めました。
場所自体というよりは、縁があってやってきたその地域を好きになり、巡り合いを大切にして、そこで役立てるように意識することが大事かなと思っています。
総合診療医の役割とやりがい
総合診療医は、患者さん、家族、地域の方々が何でも相談できる存在であり、関わるチーム皆とコミュニケーションをとり、スムーズに連携・協働できることが、重要な務めだと思います。
患者さんのものがたりを聞き、人生の様々な場面を一緒に経験していくことで、癒しや支えとなり関係性の継続が感じられることがやりがいです。「先生に相談してよかった」「わかってもらえて嬉しい」その言葉が喜びです。
患者さんや御家族と継続してお付き合いできるのが、総合診療、家庭医療の醍醐味です。難しい症例もありますが、御本人、御家族と向かい合い、寄り添うことを大切にしています。
訪問診療では、定期的に訪れる患者さんのなかには、大きな病気や、痛い苦しいという身体の状況をお持ちの方もいらっしゃいます。そういった方々への訪問時、自分から手を握ってくれて「来てくれて嬉しい」とか「気持ちをわかってもらえて嬉しい」と言ってもらえるときは、感慨深いものがあります。
また、この医療過疎の地域で仲間が減っていく中で、釧路協立病院の総合診療科では人が増えてきているというのがとても嬉しく、やりがいを感じます。
地域における病院の役割
桜ヶ岡医院のある地域は高齢化率45%と特に高齢化が進んでおり、生活習慣病だけでなく高齢者が合併しやすい多疾患併存を管理する力が問われます。内科に限らず、すべての健康問題についてプライマリ・ケアレベルで対応し、適宜急性期病院との連携が必要となります。独居、高齢夫婦、子が遠方にいるなどの家庭が多いため、地域包括センター、ケアマネージャーたちと日常的な連携が求められます。
釧路協立病院は釧根管内で唯一の機能強化型在宅療養支援病院で、160名ほどの訪問診療患者を24時間365日管理しています。がん、難病など医療必要度の高い患者様も3割以上と多いです。年間の在宅看取りは50-60名ほどです。病床もあるので外来~入院~訪問診療とシームレスなケアが行えます。地域の基幹病院からの訪問診療への紹介も多いです。
社会の色々な機関と連携するのも私たち総合診療医の大事な役割です。
地域の課題をみんなで話し合ったり、介護サービスの面や、ケアマネさんたちとの相談にも参加させてもらったりすることも、私たちの役割だと思っています。
特に力を入れている取り組み
桜ヶ岡医院では、総合診療医以外に看護師、事務、薬剤師の少数精鋭の多職種スタッフがおり、毎月「気になる患者さんカンファレンス」と題して、日常診療で各職種の視点で心配している患者さん・家族についてカンファレンスを行うようにしています。
最近、内服管理や会計の支払いがままならず認知機能低下してきているのではないか、家族の介護疲労がたまっているのではないか、経済的困難があるのではないか…など、診察室だけでは気づけないあらゆる視点が貴重です。
どの職種も通院患者さんの名前を聞くとこれまでの背景が紡ぎだされ、今後のプランまで話し合うことができているのが診療所の強みです。生活状況が不透明な患者さんのお宅には了承を得たうえで看護師・事務が自主的に訪問して悩み事をアセスメントしていることもあります。
釧路協立病院訪問診療では、訪問診療同行看護師・事務、同一法人内にある訪問看護ステーションとのチームに支えられています。重症度の高い終末期症例や複雑困難事例の場合は日常的にチームで議論できるようにしています。紹介元の病院や担当ケアマネージャーとの退院前カンファレンス、経過のサマリ共有、最近はケア終了後に関わった多職種でカンファレンスを行い在宅ケアの実際を共有できた場面もありました。
また、診療所内にスタッフの動線にいくつか小さなポストを設置しており、その中にスタッフが日常診療で気になることがあれば、紙を投函できるようにしています。カンファレンス時には、投書を確認します。それにより、急ぎの調整が必要な方ではない、みんなで向き合いたい方への意識共有も行えるようにしています。
地域の活動として、包括支援センターとの地域ケア会議、地域カフェ、患者会との懇談会、学校医活動など幅広く行っています。つい先日、包括支援センター主催の介護支援専門員連絡会議に講師として呼んでいただき、30名ほどの施設職員、ケアマネージャー、民生委員さんが参加され、総合診療医・家庭医の紹介や症例を通じたディスカッションを行い、大盛況でした。
こうした地域における総合診療医・家庭医の役割を後輩の専攻医、研修医に学んでもらうお手伝いをしているのも大きなやりがいです。私たちの背中を見て同じ道を選んでくれた後輩ができたことは釧路に来て一番嬉しかったことの一つです。
地域医療の課題
限られた医療資源のなかで、地域に求められている役割を持続可能とするシステムが課題です。地域医療を支える人たちも、元気にやりがいを感じながら続けていける状況でなければなりません。
仕事のやりがいはありますが、時間に追われ、お看取りもあります。やはり一緒に頑張る仲間がいないと続けることは容易くありません。
先ほども述べましたが、今一番嬉しいことは、仲間が増えていくことです。自分たちだけではなくて、私たちの背中を見て、同じ道を選んでくれる後輩たちへのサポート、教育が大切です。そのためには、財政的な問題も含め、よりよいシステムを作る必要があります。
医学生や若手医師たちへのメッセージ
総合診療医は親切の心を持っている方なら誰でも向いていると思います。
ちょっとしたおせっかいというか、患者さんや、地域の方々に対し、些細なことでも役に立ちたい、お話を聞きたいという気持ちが大切だと思います。
メッセージは「めぐりあいを大切に。やりたいことを住みたい場所で。」
ぜひ、総合診療医・家庭医を目指してください!
加藤医院長は、桜ヶ丘医院で外来、釧路協立病院で訪問診療と、色々なチームの方々と共に診療を行っており、釧根地域での総合診療を先導し、医師の皆さんのお手本となっています。優しく冷静なイメージですが、静かなパワーを秘めておられるよう。地域医療の課題、取り組み、やりがいを総合的な視点で語っていただきました。