北の総合診療医 - その先の、地域医療へ(市立稚内3)

市立稚内病院

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2021.03.26 記事

松谷幸浩事務局長は、2018年に庶務課長から昇任し、2020年度いっぱいで定年退職。稚内市役所職員として約35年間勤めたうち、30年以上を医療畑で歩み、「病院が好き」と語ります。病院を取り巻く医療環境、病院を縁の下で支える仕事のやりがい、総合診療医への期待などを語ってもらいました。(インタビューは2020年12月、オンラインで行われました)

圏域の救急患者が集中、循環器内科医の不在が課題

ICT、遠隔医療、
医療連携で医師不足をカバー

宗谷2次医療圏の医師偏在指標が全国最下位になり、医師が断然少ない地域であることが浮き彫りになりました。國枝保幸院長を中心に、さまざまなかたちで医師確保に取り組んでいますが、非常に苦労しているのが現状です。2つの離島を含め、京都府に匹敵する広さの医療圏の地域センター病院として、ありとあらゆる医療機能をたった三十数人の常勤医が担い、コロナ禍にあって重要性はさらに増しています。「当院が駄目になれば、170km離れた名寄市立総合病院に影響が出ます。名寄に影響が出ると、旭川にも影響が及びます」と松谷事務局長は説明します。

広大な面積を少ない医師数でカバーするため、ICT・遠隔医療の活用や、さまざまな医療連携が欠かせません。2020年、礼文町国民健康保険船泊診療所に升田鉄三所長の次男・升田晃生医師が、診療所を継ぐため赴任しましたが、赴任前に市立稚内病院で地域柄も含めて地域医療を学びました。同診療所とは、ICTを活用して婦人科診療で連携しています。市内の道北勤医協宗谷医院とは在宅医療で連携し、名寄市立総合病院とは地域医療連携ネットワーク(ポラリスネットワーク)を構築しています。将来的には、稚内市内の他の病院・診療所、薬剤師会、介護施設など、地域包括ケアシステムを全部つなげる構想もあります。

10年先を見越した医師確保
医師不足地域にこそ総合診療医が必要

事務局長の仕事は「院長の考え方の方向性を迅速に実現すること。円滑に人やお金を動かし、収益に結び付けるのが役割です。それが地域住民への還元という形で、医療機関を守ることにつながります」と言います。また、庶務課長時代から研修医確保に向けて、どんなに忙しくても学生実習や病院見学を受け入れてくれるよう、医師たちにお願いしていきました。「10年先を見越し、すぐにではないにしても、必ず何らかの形で戻ってくる」と何度も言い続けました。2004年度の新医師臨床研修制度開始以降、長く採用者がほとんどいませんでしたが、近年は毎年採用者がいます。

総合診療医については、「細分された診療科ももちろん必要ですが、医師の少ない地域では、地域を診てくれる総合医が必要です。最初は自然へのあこがれや趣味でも良いですが、その医師が後輩などの次の医師を呼び、稚内が嫌でない先生方が増え、診療科の隔たりがない総合医がどんどん生まれてくることで、長いスパンでこの地域の医療を守っていただけるのでは」と期待を込めます。

稚内市は15年前、開業医の高齢化等に伴い相次ぐ閉院を受けて、全国初の開業医誘致助成制度をつくりました。現在、市内の診療所の半数以上が、この制度を活用して開業した診療所です。「本来であれば開業医誘致制度で総合診療医に来ていただき、在宅を含めて診ていただくのが良いと思います。しかし、1次医療が少ない地域ですので、そういう志を持った先生が開業してもすぐに疲弊してしまう。でも当院の総合診療医だけでは厳しいことに変わりはありませんので、1次医療のすそ野を広げていくことが必要です」と訴えます。

市民が地域医療を応援
稚内での研修が総合診療医としての土台に

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稚内市では、地域医療を守るため、工藤広市長を会長とする「地域医療を守る稚内市民会議」が2015年に発足しています。國枝院長の講演会などを通じて、地域医療の現状について理解を深めた市民が、一体となって立ち上がったのです。地域全体で、市立病院をはじめとする地域医療機関を支えるさまざまな活動を行っており、医師や看護師に感謝のメッセージも送ってくれます。病院に対する苦情も、目に見えて減っています。「でもやっぱり、循環器をはじめとする常勤医を確保することが、地域医療を守る上でも街づくりの上でも必要で、それが行政の役割だと思います」。

メッセージ

総合診療医の研修は3年間あります。礼文島や市内の医療機関等と連携して、地域で総合医を育てることで、地域医療機関の強いネットワークが出来上がります。研修を受けた医師にとっても、将来稚内に戻ってくる際の力強い土台になります。この地域で研修したいという学生が道内外からたくさん施設見学に来ていますが、当院の総合診療医の姿を見て、後を追いかけてくれる医師が増えることを期待しています。大学医局では、稚内に行くぐらいなら医局を辞めるとまで言う医師がいると聞きます。そんな医師を減らしたい。総合診療医のステップアップには素晴らしい場所であることを理解していただき、稚内が嫌じゃない医師を増やし、どんどん来てもらいたいと願っています。

市立稚内病院のほかの
医療スタッフのインタビューもご覧ください

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