○準備書に係る知事意見 (平成12年12月19日)
1 全般的事項
a 準備書には一部適切ではない記載があるため、評価書の作成に当たっては、適切に修正を行うこと。
b 「2 個別的事項」に後述するように、環境への影響を把握する上では、計画諸元の一部が未確定なため、予測及び評価の観点から必ずしも十分とは言えない事項については、工事の実施計画の策定時又は供用開始までに、改めて調査、予測及び評価を行い、その結果を公表すること。また、講ずべき環境保全措置についても、その経過を含め検討結果を公表すること。
さらに、モニタリングについても、具体的な計画を策定の上、適切に実施すること。また、その経過を含め、適宜、検討結果を公表すること。
c 工事中及び供用後においては、環境保全措置を的確に講ずることはもとより、それぞれの時点における最新の技術・工法等を積極的に採用するなどして、環境保全に努めること。
d 工事中及び供用後においては、周辺住民の生活環境に十分配慮するとともに、苦情の申立て等があった場合には、速やかにその原因を調査し、誠意をもって解決のために必要な措置を講ずること。
2 個別的事項
(1)大気環境
ア 粉じん等について
車両基地に設置が予定されているボイラーについては、その使用目的、燃料及び規模等、想定される諸元を評価書に記載すること。
イ 騒音について
a 列車の走行に伴う騒音の予測においては、環境保全措置における「騒音低減のための技術開発」や「土地利用対策」など、現時点では騒音の低減効果が不確実なものがある。
したがって、今後、新幹線に係る環境基準の地域指定が行われた時点で、基準値を超えると予想される地点については、供用開始までに、確定した諸元に基づき改めて予測及び評価を行い、講ずべき環境保全措置として極力音源側対策に努めること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
b その場合、沿線に隣接した中高層住宅については、騒音の鉛直方向の影響も懸念されることから、必要に応じ、調査、予測及び評価を行い、適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
c 列車が高速走行する場合には、騒音等により、沿線住民に対し心理的・感覚的な影響も与え得ると懸念されることから、事業の実施に当たり、至近距離に位置する「特に静穏の保持を要する公共施設」については、関係機関と協議の上、適切な対応を図ること。
ウ 微気圧波について
トンネル坑口付近の微気圧波による影響については、予測の不確実性を考慮し、今後、その影響の低減に有効な手法が開発された場合には積極的に取り入れるとともに、供用開始時において、坑口近傍の民家等に対し当該影響に関する調査を実施し、その結果を踏まえ適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
(2)水環境
ア 水の濁り・水の汚れについて
a トンネル工事に伴う濁水については、トンネルからの濁水発生量をはじめ、排水処理施設の能力や、処理水の河川への放流量、放流濃度など、現時点では不確実なものがある。
したがって、工事の実施計画を策定する際に、必要に応じ、関係機関と協議するとともに、具体的な処理計画を策定の上、改めて予測及び評価を行い、適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
b また、工事排水の河川放流や、河川内における橋脚の設置に伴い、河川生態系への影響も懸念されることから、主要な河川において、水質をはじめ、魚類や底生生物、付着藻類を対象とするモニタリングを実施し、その結果を踏まえ適正な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
c トンネル工事においては、湧出水により重金属類を含む土砂が濁水として排出される懸念があることから、当該濁水の適切な排水処理方法についても十分な検討を加え、評価書に記載すること。
なお、供用後においても、引き続きトンネル施設から湧出水が排出される場合には、環境保全上支障がないよう、その水質管理について十分配慮すること。
イ 地下水の水質及び水位、水資源について
a トンネル工事により、計画路線周辺における地下水位の低下が懸念されるが、現時点では、掘削箇所における地下水位及び地質の詳細が明らかでないことから、水位低下の影響範囲が把握されていない。
したがって、工事の実施計画を策定する際に、あらかじめ地下水位及び地質の調査を行い、当該影響範囲を推定し定期観測区域を設定するなどして、工事着手前を含む具体的なモニタリング計画を策定し公表すること。
b トンネル工事箇所の下流に水道水源が位置する場合には、工事着手前に、工事排水による影響をできるだけ避けるよう、適切な措置を講ずること。なお、必要に応じ、水道事業者と十分協議すること。
(3)土壌に係る環境・その他の環境
ア 土壌汚染について
トンネル工事において、重金属を含む鉱化変質帯を掘削する場合には、工事による土壌汚染や水質汚染を未然に防止するため、発生土及び湧出水の厳密な管理が必要となることから、それらの管理方法(管理体制や処理フロー等)について、評価書に記載すること。
また、工事着手前に地質調査を実施し、その結果を踏まえ適切な措置を講ずるとともに、その経過を含め検討結果を公表すること。
(4)動物
ア 調査、予測及び評価について
a テン属やエゾヒグマなどについては、調査結果を的確に分析した上で、予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
b コウモリ類については、ニホンコテングコウモリ以外の種の同定が行われていないが、重要な種を含んでいる可能性があることから、既往の知見に基づき、生息が想定される重要なコウモリ種を選定して予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
c 昆虫類における「確認種一覧」には、種の同定や表の整理の一部に不備が見られることから、評価書の作成に当たっては適切に修正すること。
イ 生息域の分断について
計画路線の構造物が動物の生息域を分断する可能性は、全くないとは言えないことから、延長の長い盛土区間など分断の可能性がある場所については、動物の移動経路が確保されるよう必要な措置を講ずること。
ウ 列車走行による動物への影響について
列車の走行による動物への影響については、現時点では、影響の程度が明らかでないことから、モニタリングの実施により、騒音の観点を含めその影響の把握に努め、必要に応じ、適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
エ 工事騒音の猛禽類等への影響について
猛禽類及びクマゲラが確認された場所でモニタリングを実施し、営巣が確認された場合には、工事騒音が猛禽類等に及ぼす影響を低減するため、繁殖期間中にあっては、影響を及ぼすおそれのある工事の中止など適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
なお、営巣に関する情報の公表に当たっては、慎重を期すこと。
オ 重要な種の選定について
「北海道レッドリスト」に選定されている種についても、重要な種として選定して予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
(5)植物
ア 重要な種の選定について
「北海道レッドリスト」に選定されている種についても、重要な種として選定して予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
なお、当該リスト掲載種のほかにも、渡島半島を北限とする種等注目すべき種もあることから、このような種も重要な種として評価書に記載すること。
イ 「確認種一覧」について
「確認種一覧」には、種の同定や表の整理に一部不備が見られることから、評価書作成に当たっては適正に修正すること。
また、北海道での自生が確認されていない種のうち標本がない種については、誤同定の可能性を考慮して、「確認種一覧」から削除すること。
ウ 重要な種の保全について
重要な種の自生地にあっては、当該種の立地環境の保全に努めるとともに、移植を行う場合には、近隣の類似環境への移植などの保全措置を講じ、移植後のモニタリングを実施すること。
特に、水生植物や温帯系木本類のうち、移植・定着に困難さを伴うことが懸念される種については、立地環境の保全を最優先に対処すること。
なお、盗掘のおそれのあるラン科植物等に関するモニタリング結果の公表に当たっては、慎重を期すこと。
(6)生態系
ア 予測及び評価について
a 上位性等の注目種に係る予測及び評価については、食物連鎖や生息・生育環境に関する観点からの予測及び評価に努めること。
また、より定量的な予測及び評価を行う必要があることから、例えば、猛禽類等上位性で扱われている種について、「代表的地区の具体的検討」において、その行動圏面積と事業による改変面積との対比により、潜在的な餌場・狩り場への影響等について予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
b 予測の不確実性を考慮し、今後、事業の実施にあわせて、「代表的地区」のうち主な環境類型区分に応じた地区を適切に選定し、その地区における動植物相、個体数等の変化を把握するなど、生態系の視点でモニタリングを実施し、予測結果の検証を行うこと。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
(7)景観
a 計画路線周辺には、「羊蹄山」のほかにも主要な景観資源として選定すべきものがあることから、少なくとも、「函館山」、「昆布岳」及び「手稲山」を追加して調査、予測及び評価を行い、評価書に記載すること。
b 高架橋や防音壁、橋脚等の構造物については、それらが地域の眺望景観に及ぼす影響は小さくないこと、また、その存在が周辺住民の日常生活における心理的圧迫感をもたらすことも懸念されることから、形状や色彩等意匠について十分配慮すること。
(8)廃棄物等
ア 建設発生土について
a トンネル工事や切土工等に伴い発生する土砂については、その処理量が膨大となることから、その処分又は再利用に係る全体的な処理方針を評価書に記載すること。
b 当該土砂については、事業実施区域内で、できるだけ再利用を図るとともに、各工事の着手前に、事業実施区域内・外における再利用又は処分について、関係機関と協議の上、具体的な処理計画を策定し、適正に処分すること。また、当該処理計画については、各工事の着手前に、その都度、公表すること。
c その場合、建設発生土の「土捨場」への処分については、現時点では、設置箇所をはじめ、処分量等が明らかでないことから、必要に応じ、当該土捨場の設置が周辺環境に及ぼす影響について、調査、予測及び評価を行い、適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
イ 建設廃棄物について
a 建設汚泥やコンクリート塊、伐採木等の建設廃棄物については、その種類ごとに、減量化や再資源化の観点で、その処分又は再利用に係る全体的な処理方針を評価書に記載すること。
b 建設廃棄物については、有効利用を図るとともに、各工事の着手前に、種類別発生量や事業実施区域内・外における再利用又は処分について、関係機関と協議の上、具体的な処理計画を策定し、適正に処分すること。また、当該処理計画については、各工事の着手前に、その都度、公表すること。
(9)仮設工事
工事用道路や工事施工ヤード、仮設橋梁などの仮設工事については、現時点では、その設置箇所をはじめ具体的内容が明らかでないことから、工事の実施計画を策定する際に、関係機関と協議するとともに、必要に応じ、改変を受ける地形や植生等の自然環境や河川水質について、調査、予測及び評価を行い、適切な措置を講ずること。また、その経過を含め検討結果を公表すること。
(10)モニタリング
次の自然環境に係るモニタリングについては、これまで得られた調査結果の整理・分析などをもとに、調査期間や調査時期、調査方法及び公表の方法等を適切に設定の上、モニタリング計画を策定し公表すること。
また、モニタリングによる調査結果を踏まえ適切な措置を講ずるとともに、その経過を含め検討結果を公表すること。
a 水の濁り・水の汚れ
・ 工事排水等が、水質、魚類、底生生物及び付着藻類に及ぼす影響の程度の把握
b 動物
・ 列車走行に伴う騒音等が動物に及ぼす影響の程度の把握
・ 工事中の騒音が猛禽類等に及ぼす影響の程度の把握
c 植物
・ 重要な種を移植した場合における移植後の生育状況の把握
d 生態系
・ 「代表的地区」のうち、主な環境類型区分に応じた地点における動植物相及び個体数の変化の把握
(11)その他
「2 個別的事項」において、今後、検討結果や処理計画等について公表する旨意見とした事項に関しては、それらに係る対応方針を評価書に記載すること。
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