○環境影響評価方法書に係る知事意見 (平成27年12月2日) 1 総括的事項
(1)本方法書記載の計画については、前段の手続きとして平成26年6月に提出された(仮称)道北中央風力発電事業計画段階環境配慮書に対する知事意見において、環境配慮事項の検討があまりにも不十分であり、事業の実施による重大な環境影響が生じないと判断するに足る内容を備えていないことから、事業を現実に想定する位置等の事業諸元を明らかにした上で、改めて配慮書を作成すべきであるとしたところである。しかし、事業者は、配慮書を再作成し改めて手続きを経ることはせず、方法書手続きを開始したことにより、環境影響評価法に配慮書の手続きが設けられた本来の意義が損なわれる結果となった。 本方法書の対象事業実施区域は、当該配慮書の事業実施想定区域の一部であり、平成26年11月には同配慮書に係る3方法書((仮称)芦川・豊富山風力発電事業、(仮称)川西・川南風力発電事業及び(仮称)増幌風力発電事業)が既に提出されているほか、平成26年4月には別事業者により本方法書と区域が重なる準備書((仮称)天北風力発電所)が提出されている。 本方法書も、環境影響評価項目全般にわたって、調査、予測及び評価の項目及び手法に係る具体的な記述がないものや調査不足が見られるなど、今後実施する環境影響評価の方法等を記載すべき図書として不十分であり、一般にも分かりにくく信頼に足る図書となっていない。 このため、事業者は、今後準備書の作成に当たっては、各環境影響評価項目について実施した調査の詳細な内容、予測及び評価の手法等に係る考え方、根拠及びその結果等の必要な情報を遺漏なく具体的に、かつ一般にも分かりやすく記載すること。なお、専門的な表現等については、解説等を付すとともに、図表については見やすいものとすること。 (2)対象事業実施区域及びその周辺では、オジロワシ及びチュウヒの営巣やオオワシ、クマタカ等の希少猛禽類の飛翔が確認されているほか、対象事業実施区域内にエゾイタヤ-ミズナラ群落等の自然林や保安林など重要な自然環境のまとまりの場が存在している。
このため、今後、風力発電設備、変電施設、送電線、現場事務所、工事用道路、管理用道路、作業ヤード、土捨場等の設置等、事業の実施に伴う土地の改変箇所等の決定、その他の事業計画の検討に当たっては、これらの環境に配慮すべき区域を除外するなどの措置を講じること。また、2の個別的事項の内容を十分に踏まえ、適切に調査、予測及び評価を行い、その結果に基づき事業の位置及び規模、風力発電設備の配置及び構造を検討するとともに、事業の実施による環境影響を最大限、回避又は低減するよう環境保全措置の検討を行い、その検討の経緯を含め、実行可能な代替案についても具体的に準備書に記載すること。 (3)事業者は、稚内市と豊富町にまたがる広大な地域において、平成26年11月に提出した3方法書、同時に提出した方法書((仮称)勇知風力発電事業)及び平成27年6月に提出した配慮書((仮称)宗谷丘陵風力発電事業)と併せて最大出力95万kW、最大350基もの大規模かつ多数の風力発電設備の集中的な設置を計画しているが、このような巨大な計画は国内に類例がなく、これらの事業が全体として地域の環境に与える累積的な影響は極めて大きなものとなることが懸念される。
このため、騒音及び超低周波音、水質、風車の影、鳥類等の飛翔性動物、生態系及び景観など、関係する環境影響評価項目に係る累積的な影響については、専門家等の助言を得ながら十分な調査を行うとともに、予測及び評価が適切なものとなるよう、多角的に検討すること。 (4)事業者は、準備書のインターネットでの公表に当たっては、印刷可能な状態にすることや、縦覧期間終了後も継続して公表しておくことなど、利便性の向上及び住民等との相互理解の促進に努めること。
2 個別的事項
(1)大気質 ア 工事用資材等の搬出入による窒素酸化物及び粉じん等について、他の風力発電事業と工事時期が重複する場合は、当該事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 イ 建設機械の稼働による窒素酸化物及び粉じん等について、(仮称)天北風力発電所又は(仮称)増幌風力発電事業と工事時期が重複する場合は、当該事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 (2)騒音及び超低周波音、振動
ア 現況騒音の測定については、風の影響を可能な限り受けないよう風の強い日を避け、残留音を適切に把握するとともに、施設の稼働による騒音及び超低周波音に関しては、周波数200ヘルツ以下の帯域について、3分の1オクターブバンド中心周波数の音圧レベルで調査、予測及び評価を行うこと。 イ 風力発電設備と住居等の位置と苦情の発生事例との関係を踏まえ、風力発電設備の配置計画の検討過程を明らかにすること。 ウ 対象事業実施区域及びその周辺は元来静穏な地域であることを踏まえ、施設の稼働による騒音及び超低周波音の評価に当たっては最新の知見を用いるとともに、現況からの影響の増加分を可能な限り小さくするため、風力発電設備の適正な配置や構造等の検討を含めて、十分に回避、低減されているかの観点から評価すること。なお、周波数200ヘルツ以下の帯域については、低周波音に対する人の感覚のレベルとの比較対照により評価し、影響が生じる可能性がある場合には十分な環境保全措置を講じること。また、騒音及び超低周波音による心身への影響については不確実性があることから、稼働開始後に影響が確認された場合の対策について検討すること。 エ 工事用資材等の搬出入による騒音及び振動について、他の風力発電事業と工事時期が重複する場合は、当該事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 オ 建設機械の稼働による騒音及び振動について、(仮称)天北風力発電所又は(仮称)増幌風力発電事業と工事時期が重複する場合は、当該事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 カ 施設の稼働による騒音及び超低周波音について、(仮称)天北風力発電所又は(仮称)増幌風力発電事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 (3)水環境
ア 工事の実施により発生するおそれのある水の濁りに係る環境保全措置について、近年増加している局所集中的な降雨の傾向を十分に踏まえたものにするとともに、沈砂池等の施設の構造や処理能力等から理論計算等が可能なものは、定量的に調査、予測及び評価を行うこと。 イ 工事の実施による水の濁りについて、(仮称)天北風力発電所又は(仮称)増幌風力発電事業と工事時期が重複する場合は、増幌川に対する当該事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 (4)風車の影
施設の稼働による風車の影(シャドーフリッカー)については、影響が及ぶ時間の長短に関わらず人によって気になることがあるため、風力発電設備の適正な配置や構造等の検討を含めて、十分に影響が回避、低減されているかの観点から評価すること。また、(仮称)天北風力発電所又は(仮称)増幌風力発電事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 (5)動物
ア 動物相の調査については、土地改変や樹木の伐採を予定する場所を網羅するよう調査ルートを設定するとともに、谷状の地形についても調査ルートに含めること。特に水流が認められるなど湿潤な場所については、小型の動物が好んで利用し、両生類の繁殖の場ともなることから、可能な限り上流域まで調査すること。 イ ほ乳類及び昆虫類の捕獲調査については、土地改変や樹木の伐採等による影響を適切に予測するため、風力発電設備や道路の設置場所等の土地改変予定箇所など、地形や植生その他の生息基盤となる環境の特性に応じて適切な場所を選定すること。また、コウモリ類の調査について、より正確な状況把握を行うため、四季を通じて調査を行うとともに、バットディテクターによる調査は、専門家等の助言を得ながら適切な調査時期、調査地点及び日数を設定すること。 ウ 対象事業実施区域及びその周辺において、専門家等により希少猛禽類のオジロワシ及びチュウヒの営巣が確認されているほか、初冬期に保護水面である増幌川に遡上するサケ等を餌とする多数の海ワシ類が確認されている。また、大沼、兜沼方面からのオオヒシクイ及びコハクチョウなどの渡り鳥の通過が確認されている。 これらのことから、希少猛禽類及び希少な水鳥類等の風力発電設備への衝突事故の回避に向けて、専門家等から助言を得ながら、宗谷地域における風力発電設備での飛翔行動分析及び衝突事故発生事例分析等可能な限り最新の知見を収集するとともに、適切な調査時期及び調査地点を選定し、調査、予測及び評価を行うこと。また、計画中の他の風力発電事業との累積的な影響についても適切な地点を設定し、調査、予測及び評価を行うこと。 エ 希少猛禽類の調査は、年間を通じて実施し、当該調査を通じて営巣が確認された場合には、当該営巣について調査期間を2営巣期を含む1.5年以上に設定するとともに、特に営巣期における行動圏解析等を綿密に行うこと。 オ 国内希少野生動植物種であり国の特別天然記念物であるタンチョウは、平成25年4月にタンチョウ生息地分散行動計画が策定され、その積極的な保護増殖が進められている。その分散適地として選定されている「稚内大沼・メグマ沼・メグマ川周辺湿地」は、対象事業実施区域の北西方向に位置する今後の分散に重要な地域であるとともに、近年、同地で観察されているタンチョウは道北地域における個体群維持に非常に重要な意味を持つことを事業者は再認識する必要がある。 このため、最新の生息情報を入手するとともに、専門家の意見に従って必要な期間及び方法で十分な調査を行い、生息等への影響について適切に予測及び評価を行うこと。 カ 希少鳥類に係る渡り及び移動に関する調査について、他の4方法書及び1配慮書に係る全ての対象事業実施区域及びその周辺を包含する区域を併せて鳥類の移動経路及び飛翔高度を把握するとともに、飛翔軌跡図を作成し、希少鳥類の生息環境に及ぼす影響について適切に予測及び評価を行うこと。 キ 鳥類等の衝突の予測には大きな不確実性を伴うことから、専門家等の助言を得ながら適切な頻度、期間及び方法によって事後調査を実施すること。 (6)植物
ア 植物相の調査については、土地改変や樹木の伐採を予定する場所を網羅するよう調査ルートを設定すること。 イ 工事の実施による土地改変や樹木の伐採については、その範囲を必要最小限とするとともに、特に自然度の高い植生の区域及び大型鳥類などが営巣に利用し得る大径木の生育域を可能な限り回避すること。 ウ 工事の実施による土地改変に伴う表土の移動や改変箇所の裸地化等により侵略的な外来種の生育域が拡大し、周囲の植生等に影響を及ぼすおそれがあることから、土地改変を予定する区域及びその周囲における侵略的な外来種の生育状況を予め把握し、工事の実施によりその分布が拡大することのないよう施工方法を検討すること。 (7)生態系
ア 生態系の調査、予測及び評価に当たっては、集水域などの地形単位や植生、土地利用等のまとまりを考慮して調査範囲を設定し、基盤環境と生物群集の関係を把握するとともに、事業の実施による環境変化が注目種・群集へ及ぼす影響を、可能な限り科学的、定量的に予測及び評価すること。 イ 注目種・群集の選定については、風力発電の事業特性による環境の変化により生息・生育及び繁殖等への影響を受けやすい種・群集であって、対象事業実施区域及びその周辺地域の種の多様性を維持する上で重要と考えられる地形、植生等に依存しているものを選定すること。 ウ ブレードが回転することにより出現する球状の衝突危険空域が、他の風力発電事業と連続することで長大な障壁空間となり、そのことによってもたらされる鳥類等のバードストライクの増加や忌避反応による生息地の縮小、変更、喪失及び飛翔ルートの変更によるエネルギーロスなど、鳥類等の生息環境の変化等を通じて生態系に累積的な影響が及ぶことが懸念される。 このため、他の風力発電設備でのバードストライクの事例や回避行動などのデータを元に、専門家等で組織する検討会などで、それらの累積的な影響について、調査、予測及び評価を行うこと。 (8)景観
ア 景観については、四季を通じて風力発電設備が視認しやすい天候時のフォトモンタージュ等を作成し、客観的かつ科学的な予測及び評価を行うこと。 イ フォトモンタージュ等は人間の視野特性に近い水平画角60度程度で作成するとともに、他の風力発電事業との累積的な影響についても、パノラマ画像を用いて全ての主要な眺望点からの眺望景観及び身近な景観への影響について、予測及び評価を行うこと。 (9)廃棄物等
工事の実施に伴い発生する廃棄物及び残土は、排出方法及び処理方法等を明らかにした上で、排出量について適切に調査、予測及び評価を行うこと。 |