猿払村及び浜頓別町風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に係る知事意見

 計画段階環境配慮書に係る知事意見 (平成26年5月23日) 

1 総括的事項
 
(1)猿払村の湿原群は、河川周辺や沖積低地の湿原、海岸付近に点在する海跡湖とその周辺に発達する湿原などの様々なタイプの湿原で構成されており、多くの貴重な野生動植物が生息・生育する良好な自然環境が残された地域である。猿払村と浜頓別町との境界に近い場所に位置する浅茅野湿原は、モケウニ沼や隣接する小沼などの湖沼を擁し、海岸に近いにもかかわらず、山地の湿地で見られるアカエゾマツが生育するミズゴケ湿原で、学術的にも大変貴重である。猿骨沼とポロ沼の周囲には広々とした低層湿原が発達し、ガンカモ類、シギ類などの水鳥が数多く飛来するなど、浅茅野湿原などとも合わせ「猿払原野」として、環境省により「日本の重要湿地500」に選定されている。更に、猿払川に沿った湿原群は、中流から下流にかけてゆるやかな勾配地形に階段状に発達したテラスに連続するもので、湿原の形成過程や地形が他とは異なる非常に貴重な湿原である。また、蛇行しながら流下する猿払川は、道内でも重要なイトウの生息地の一つとなっている。
 
(2)浜頓別町のクッチャロ湖は海岸段丘に囲まれた大沼、小沼からなる海跡湖であり、湖岸に広がる低層湿原の植生はヨシ-イワノガリヤス群落とヤチヤナギ-ムジナスゲ群落が優占し、水辺には抽水植物やヒシが多く、コハクチョウを含むガンカモ類などの水鳥の渡りの中継地としても重要な湖沼である。このため、鳥獣保護法に基づく特別保護地区を含む国指定鳥獣保護区にも指定されているほか、特に、毎年シベリアから飛来する約1万羽のコハクチョウにとっては日本の最初の飛来地にあたり、水鳥にとって国際的にも重要な湿地であることから、平成元年7月、ラムサール条約に登録されているほか、猿払原野とともに、環境省により「日本の重要湿地500」に選定されている。
 
(3)事業実施想定区域の猿払村及び浜頓別町では、これらの極めて貴重で豊かな自然環境や野生動植物の保全を総合計画に謳うとともに、観光資源等として活用しているほか、地域の民間団体等においても野生動植物の保護やその生息・生育地としての湿原等の保全活動が活発に行われている。
 
(4)5つの事業実施候補区域及びその周辺地域は、希少種を含む多数の鳥類の渡りのルートとなっており、また、タンチョウ、オジロワシ、オオワシ、チュウヒ等の希少鳥類や多種多数の水鳥類の生息や繁殖が確認されているほか、それらの餌場、休息場、ねぐら等となっている環境変化に対して脆弱な湿性環境(湿地・湿原・河川・湖沼)は全ての区域内に存在している。こうしたことから、5つの事業実施候補区域の何れにおいても、風力発電施設の設置による土地の改変や施設供用に伴うバードストライク等により、それらの生息環境に対して重大 で回復困難な影響を及ぼすこととなるおそれが極めて高い。このような影響を回避するためには、事業実施候補区域の位置の変更を基本として、事業 計画を抜本的に見直すとともに、事業の規模並びに発電設備等の構造及び配置についても慎 重に検討する必要がある。
 
2 個別的事項
 
 本事業の規模及び構造・配置の検討にあたっては、科学的・客観的な調査、予測及び評価を慎重に行った上で、各区域については次の点に配慮し、その決定に反映させること。
 
(1)A区域
 
 本区域は、キモマ鳥獣保護区及び北海道自然環境保全指針ですぐれた自然地域に抽出された猿骨沼などに近接し、水鳥や希少鳥類が多数飛来する地域であることから、これらの生息環境に対して著しい影響を及ぼすおそれが極めて高いため、専門家等からの意見を聴取した上で、水鳥や希少鳥類の渡りを含む飛翔ルートに関する詳細な調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を踏まえ、バードストライクなどの重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 特定植物群落である猿骨沼周辺の湿原及びキモマ沼オゼコウホネ群落などに近接しているため、これらから可能な限り離隔距離を確保すること。また、重要な植物種に関する調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を聴取した上で、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 イトウの生息が確認されている河川があることから、工事及びその後の地形改変による濁水や土砂の流入などによるイトウの生息に対する影響を予測し、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には学校等、病院等、居住地区、住居などが存在しており、これらに対する騒音(低周波音を含む。以下同じ。)及び超低周波音による環境影響が生じるおそれがあるため、適切に調査及び予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 主要な眺望点である道の駅さるふつ公園に隣接するため、本地点からの景観の影響が懸念されることから、景観に係る重大な影響の有無を評価すること。
 
(2)B区域
 
 本区域内には、北オホーツク道立自然公園及び北海道自然環境保全指針ですぐれた自然地域に抽出されたカムイト沼があり、また、浅茅野王子鳥獣保護区にも隣接し、水鳥や希少鳥類が多数飛来する地域であることから、これらの生息環境に対して著しい影響を及ぼすおそれが極めて高いため、専門家等からの意見を聴取した上で、渡りを含む飛翔ルートに関する詳細な調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を踏まえ、バードストライクなどの重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 猿払川中流の湿原などの特定植物群落の生育を支える湿原・湿地を避けるとともに、可能な限り離隔距離を確保すること。 また、重要な植物種に関する調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を聴取した上で、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 カムイト沼にはタテヤママリモが生育しているため、工事及びその後の地形改変による濁水や土砂の流入などによるタテヤママリモの生育に対する影響を予測し、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 イトウの生息が確認されている河川があることから、工事及びその後の地形改変による濁水や土砂の流入などによるイトウの生息に対する影響を予測し、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には住居が存在しており、これらに対する騒音及び超低周波音による環境影響が生じるおそれがあるため、適切な調査及び予測を行い、重大な環境影響の有無を評価する こと。
 
 本区域の周辺には、既に他事業者による風力発電設備が設置・供用されていることから、これら風力発電設備のうち本事業との累積的な環境影響が想定されるものについて、調査、予測及び評価を行うこと。
 
 本区域には、主要な眺望点であるカムイト沼が含まれ、本地点からの景観の影響が懸念されることから、景観に係る重大な影響の有無を評価すること。
 
(3)C区域
 
 本区域は、北オホーツク道立自然公園及び北海道自然環境保全指針ですぐれた自然地域に抽出されたベニヤ原生花園、身近な自然地域に抽出されたモケウニ沼、エサヌカ原生花園、また、浅茅野王子鳥獣保護区などを含み、ラムサール条約登録湿地であるクッチャロ湖に近接するなど自然環境保全上極めて重要な地域である。特に、これらを利用する多数の水鳥や希少鳥類の生息環境に対して著しい影響を及ぼすおそれが極めて高いため、専門家等からの意見を聴取した上で、水鳥や希少鳥類の渡りを含む飛翔ルートに関する詳細な調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を踏まえ、バードストライクなどの重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 特定植物群落である浅茅野湿原植生、浜頓別クッチャロ湖湿原植生、浜頓別ベニヤ海岸草原群落の範囲を避けるとともに、可能な限り離隔距離を確保すること。 また、重要な植物種に関する調査及び予測を特に慎重に行い、その結果に対する専門家等からの意見を聴取した上で、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には住居が存在しており、これらに対する騒音及び超低周波音による環境影響が生じるおそれがあるため、適切な調査及び予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には、主要な眺望点であるエサヌカ直線道路及びモケウニ沼が含まれ、本地点からの景観の影響が懸念されることから、景観に係る重大な影響の有無を評価すること。
 
(4)D区域
 
 本区域は、ラムサール条約登録湿地であるクッチャロ湖に近接しているとともに、特別天然記念物であるタンチョウの繁殖地に隣接する地域であることから、これらの生息環境に対して著しい影響を及ぼすおそれが極めて高いため、専門家等からの意見を聴取した上で、水鳥や希少鳥類の渡りを含む飛翔ルートに関する詳細な調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を踏まえ、バードストライクなどの重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 特定植物群落である浜頓別クッチャロ湖湿原植生に近接するため、可能な限り離隔距離を確保すること。また、重要な植物種に関する調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を聴取した上で、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には住居が存在しており、これらに対する騒音及び超低周波音による環境影響が生じるおそれがあるため、適切に調査及び予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には、主要な眺望点であるクローバーの丘が含まれ、本地点からの景観の影響が懸念されることから、景観に係る重大な影響の有無を評価すること。
 
(5)E区域
 
 本区域内は、オオワシ及びオジロワシ等の猛禽類が集まる餌場、休息場、ねぐら等に近接しており、これらの生息環境に対して著しい影響を及ぼすおそれが極めて高いため、専門家等からの意見を聴取した上で、渡りを含む飛翔ルートに関する詳細な調査及び予測を行い、その結果に対する専門家等からの意見を踏まえ、バードストライクなどの重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域内には住居が存在しており、これらに対する騒音及び超低周波音による環境影響が生じるおそれがあるため、適切な調査及び予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
 本区域の周辺には、既に他事業者による風力発電設備が設置・供用、または今後増設される計画もあることから、これら風力発電設備のうち本事業との累積的な環境影響が想定されるものについて、予測及び評価を行うこと。
 
3 その他
 
(1)本配慮書では、全ての事業実施候補区域内に多数の住居が存在しており、事業の実施により当該住居に対して風車の影による環境影響が生じるおそれがあるにも関わらず、影響予測が行われていない。 ついては、適切な方法により風車の影に係る調査、予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。
 
(2)事業実施候補区域に北オホーツク道立自然公園など人と自然との触れ合いの活動の場が含まれているものもあり、事業の実施に伴って生じる利用性、快適性の変化、アクセスルートの変化などが想定されることから、適切な調査、予測を行い、重大な環境影響の有無を評価すること。

 

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