知床の自然
流氷の海に舞うオオワシ。幻の神鳥と呼ばれるシマフクロウ。知床半島では、渡り鳥を含め260種以上もの鳥類がみられます。
エサが豊富な知床半島沿岸には、海鳥のほかにクジラやシャチも顔を見せ、トドやアザラシ、ヒグマなどの野生動物たちも集まります。
美しい知床連山に目を向ければ、知床山系の固有種であるシレトコスミレをはじめ、200種以上の可憐な高山植物が咲いています。
「知床」はアイヌ語で「Sir-etoko(地の・突出部)」。
人間を寄せつけない切り立った断崖絶壁を持つ半島部がオホーツク海に突き出し、世界的にも貴重な原始の自然をそのまま残しています。
そして今、その宝物を次の世代に残すことが私たちの大きな使命です。
※アイヌ語の参考文献:山田秀三『北海道の地名』、北海道新聞社
次の世代に残したい、大切な宝物
北海道の斜里町と羅臼町。
知床とともに暮らしてきた町では、自然を守るための活動が地道に続けられてきました。
開拓で失われた原生林を復元する植樹運動、海岸に漂着するゴミの清掃活動など、住民の熱意と努力が「世界自然遺産」への大きな一歩となったと言えるでしょう。
この知床を守り、生かし、次の世代に残していくためには、更なる知恵と努力が必要です。
知床を見つめることは、「人と自然との共生」を実現することでもあります。
海洋から高山までの多様な生態系
動植物が、海洋~海岸線~高山まで多様な生態系を形成しており、それら全てが原生的な状態で一体として保全され、北海道本来の動物相がそろっています。
知床は、流氷が毎年接岸する世界最南端の地であり、流氷の下で生育する膨大な植物プランクトンが、海洋の豊かな動植物相の源となっています。
知床の河川は、河川の規模の割に多くのサケ・マスが遡上し、その恵みがヒグマやシマフクロウなどの陸上の野生動物、更には森林の木々にもたらされます。
このように、多様な生態系の中に海陸一体となった食物連鎖やエネルギーの循環などが保全され、動植物のそれぞれの種の存在以上に、その生態系としての全体の価値のある地域です。
知床の森林
知床連峰は、豊かな原生林に覆われています。
トドマツやアカエゾマツなど北方性の常緑針葉樹と、ミズナラやセンノキなどの落葉広葉樹が混じり合った森林が、知床の典型となっています。
海岸から稜線に向かって、海岸植生~落葉広葉樹林~針広混交林~ダケカンバ林~ハイマツ低木林と推移する垂直分布が、セットで見られることが特徴です。
知床の動物
知床半島では、ヒグマが世界有数の高密度状態で維持されており、知床を象徴する野生動物の一つとなっています。
ヒグマは草本や果実を主に利用する雑食動物ですが、知床の遺産地域では高山帯から海岸線まで自由に行き来できることから、大量に遡上するサケ科魚類も積極的に利用しており、海域と陸域の生態系をつなぐ重要な役割を果たしています。
知床沿岸には、日本に来遊するすべてのアザラシ類が見られ、流氷の南下とともにゴマフアザラシやクラカケアザラシ等が回遊します。
北海道周辺は太平洋西岸におけるアザラシ類の回遊の最南端の地ですが、その中でも知床沿岸が重要な繁殖地となっています。
世界最大級のフクロウであるシマフクロウは、世界で最も絶滅が心配されている鳥類の一つです。
日本に生息する亜種(Ketupa blakistoni blakistoni)は、世界で北海道、国後島、サハリンに200羽あまりしか生息していません。
道内には約120羽が生息しており、知床にはこのうち約4分の1が生息していると推測されています。
オオワシは、世界的に分布が限られており、生息数は約5,000羽と言われています。
知床は、全世界のオオワシの約3分の1が越冬できる環境を備えた世界最大規模の越冬地であり、多い年で2,000羽以上が集まります。
知床はオジロワシの世界有数の営巣地で、冬季には最大600羽が記録され、重要な越冬地となっています。
景観
知床は、流氷が毎年接岸する北半球で最南端の地であり、流氷の浸食作用が長い年月をかけて、知床独特の景観である海岸の断崖絶壁を形成してきました。
知床の海岸は、切り立った断崖に縁取られていますが、これは流出した溶岩と流氷の浸食作用により創り出されたものです。