北海道レッドリスト(2001年)について
平成13年(2001年)5月10日
北海道環境生活部
1 作成の経緯
わが国における絶滅のおそれのある野生生物の種の現状については、1989(平成元)年に、(財)日本自然保護協会等から植物版のレッドデータブックが発行され、1991(平成3)年には、環境庁(現環境省)により動物版の「日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック」がとりまとめられ、全国的な観点から希少な野生生物の保護対策が進められている。一方、野生生物の生息・生育状況は地域によって異なるため、地域の実情に応じた資料として、各都府県等においても地域版レッドデータブックの作成が検討、実施されてきた。
北海道においては、1994(平成6)年度に北海道版のレッドデータブックの作成作業に着手し、道内に生息・生育する野生生物のうち、植物、哺乳類、鳥類、両生類・爬虫類、魚類、昆虫の各分類群について、絶滅のおそれのある種等の選定を進めてきたところであるが、この度、その選定結果をとりまとめた「北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック2001」のうち、種名等を「北海道レッドリスト」として公表するものである。
2 作成の目的
自然豊かな北海道には、わが国の中でも特有の生物相による多様な生態系が形成されているが、近年、本道においても、野生生物の減少が進んでおり、北海道における希少な野生生物の保護を通じて生物多様性の保全を図ることが緊急の課題となっている。
生物の多様性の保全に当たっては、野生生物の「種」を保存することが極めて重要であることから、道内に生息・生育する野生生物を対象として、絶滅のおそれのある種の現状を的確に把握した「北海道レッドデータブック」を作成し、保護の取組みの基礎資料として活用を図るものとする。
3 検討体制
北海道レッドデータブックの作成にあたっては、1994(平成6)年度、「野生生物保護管理検討委員会」に「北海道レッドデータブック作成部会」を設置するとともに、部会の中に各分類群ごとの小委員会を設けて、検討作業を行った。
なお、検討に当たっては、以下に掲げる検討委員のほか、多数の専門家の協力を得ている。
部会等の名称 |
主な検討項目 |
検討委員の氏名及び所属(検討当時) |
北海道レッド |
基本的な考え方やカテゴリーなどの全体的な内容の検討 |
阿部 永(部会長)/北海道大学農学部 |
部会等の名称 |
主な検討項目 |
検討委員の氏名及び所属(検討当時) |
北海道レッド |
北海道に生育する高等植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)のリストアップと保護上重要な種の選定 |
伊藤浩司(座長)/札幌国際大学 |
同 |
北海道に生息する哺乳類のリストアップと保護上重要な種の選定 |
阿部 永(座長)/北海道大学農学部 |
同 |
北海道に生息する鳥類のリストアップと保護上重要な種の選定 |
藤巻裕蔵(座長)/帯広畜産大学 |
同 |
北海道に生息する両生類、爬虫類のリストアップと保護上重要な種の選定 |
竹中 践(座長)/北海道東海大学 |
同 |
北海道に生息する魚類(淡水・汽水に生息、または遡上する種)のリストアップと保護上重要な種の選定 |
後藤 晃(座長)/北海道大学水産学部 |
同 |
北海道に生息する昆虫のリストアップと保護上重要な種の選定 |
久万田敏夫(座長)/北海道大学農学部 |
4 選定方法
(1)北海道レッドデータブック・カテゴリー
絶滅のおそれのある種等、保護上重要な種の選定にあたっては、絶滅のおそれの度合い等を示すための基準として、次のとおり、「北海道レッドデータブック・カテゴリー」を作成し、検討委員を始め協力者の知見等をもとに各カテゴリーに該当する種を選定した。
なお、情報不足で種の現状が判断できないものについては、基本的に今回の選定から除外するとともに、今後の情報収集などに努めていくこととしている。
このカテゴリーのうち、絶滅危機種(Cr)、絶滅危惧種(En)、絶滅危急種(Vu)は、絶滅のおそれのある種として位置付けられ、絶滅のおそれの度合いが高いものから、絶滅危機種、絶滅危惧種、絶滅危急種の順となっている。
各カテゴリーの具体的要件については、表1(PDF)に整理し、また、北海道レッドデータブック・カテゴリーと環境庁のレッドデータブックカテゴリー(環境庁1997a)及びIUCNが採択しているカテゴリー(IUCN 1994)との対応関係については、表2(PDF)に整理した。
このカテゴリーに基づき、北海道内の野生生物の種の現状を評価し、選定を行ったが、北方領土は選定の対象地域から除いている。北方領土は、生息・生育する種の情報がきわめて限られるため、評価対象から除外せざるを得なかった。
なお、道外の地域にも分布する種については、「北方領土を除く北海道内の個体群の絶滅のおそれ」を評価し選定を行っている。したがって国におけるレッドデータブックとは評価対象地域が異なるので、同じ種でも評価の結果が異なっているものがある。
北海道レッドデータブック・カテゴリー
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*地域個体群と留意種は同じ種が重複して選定されている場合がある。
(2)各分類群の選定方法の概要
【植物】
北海道に生育する高等植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)の全種目録(2,250種、621品種・変種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種、品種、変種を対象に行い、学名のあるものをそれぞれ独立した植物として扱った。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。なお、環境庁(2000a)は、種の選定・検討の段階では使用していない。
1)種毎の確認メッシュ数、分布状況、固有性、園芸性、繁殖力、生育地の脆弱性
2)各検討委員が知見を持つ定性的または定量的な情報
3)他のレッドデータブック等(以下、他のRDBという。)の選定結果(環境庁(1997c)、日本自然保護協会(1989)、自然公園法第17条第3項第8号で国立公園及び国定公園ごとにその特別地域内において許可を受けなければ採取または損傷してはならない高山植物、その他これに類する植物)
◆情報不足で種の現状が判断できないものは基本的に選定から除外するとともに、絶滅危惧種(Vu)以上のカテゴリーについては、より具体的な情報のある場合に選定した。
【哺乳類】
北海道に生息する哺乳類の全種目録(62種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種を対象に行ったが、北海道に亜種が生息する場合、亜種の取扱いは種に準じた。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。なお、環境庁(1998)は、種の選定・検討段階では使用していない。
1)種毎の分布、生息環境、採餌習性、繁殖活動、社会構造、捕獲数推移(狩猟鳥獣のみ)
2)各検討委員が知見を持つ定性的な情報
3)他のRDBの選定結果(環境庁(1991a)、水産庁(1994、1995)、IUCN(1996)、日本哺乳類学会(1997))
◆情報不足で種の現状が判断できないものは選定から除外した。
【鳥類】
北海道に生息する鳥類の全種目録(405種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種を対象に行ったが、北海道に亜種が生息する場合、亜種の取扱いは種に準じた。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。なお、環境庁(1998)は、種の選定・検討段階では使用していない。
1)種毎の分布、生息環境、営巣習性、渡り習性、食性、捕獲数推移(狩猟鳥獣のみ)
2)各検討委員が知見を持つ定性的または定量的な情報
3)他のRDBの選定結果(環境庁(1991a)、水産庁(1995)、IUCN(1996))
◆北海道での生息数、確認数が少ない種であっても、数の減少や生息環境の悪化が見られない場合や迷鳥と考えられる場合は、選定から除外した。
【両生類・爬虫類】
北海道内に生息する両生類・爬虫類の全種目録(24種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種を対象に行ったが、北海道に亜種が生息する場合、亜種の取扱いは種に準じた。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。なお、環境庁(2000b)は、種の選定・検討の段階では使用していない。
1)種毎の分布、生息環境、食性、生活史、生息状況
2)各検討委員が知見を持つ定性的な情報
3)他のRDBの選定結果(環境庁(1997b)、水産庁(1994、1995、1998))
◆情報不足で種の現状が判断できないもの、主に海域に生息し陸域での確認が希であるもの(ウミガメ類)、移入種は選定から除外した。
【魚類】
北海道内の淡水・汽水に生息、または遡上する魚類の全種目録(71種1亜種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種を対象に行ったが、北海道に亜種が生息する場合、亜種の取扱いは種に準じた。ただし、一部、亜種を対象に選定したものがある。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。
1)種毎の分布、生息環境、生活史、摂餌生態、繁殖生態、生息状況
2)各検討委員が知見を持つ定性的な情報
3)他のRDBの選定結果(環境庁(1999)、水産庁(1994、1995、1998))
◆移入種は選定から除外した。
【昆虫】
北海道内に生息する昆虫の全種リスト(11,241種、59亜種)を作成し検討した。
◆選定は基本的に種を対象に行ったが、北海道に亜種が生息し、亜種として評価・選定を行うことが適切と考えられる場合には、亜種を対象に選定した。
◆選定根拠の検討は、次の情報等に基づいて行った。
1)種毎の分布
2)各検討委員が知見を持つ定性的な情報
3)他のRDBの選定結果(環境庁(1991b、2000c))
◆北海道内に自然分布するものを対象とした。
◆情報不足の種もある中で、現在の限られた知見で種の選定を行ったため、本リストに掲載されていない種の中には、絶滅のおそれの有無等の判断を保留しているものがある。また、「希少種」として選定している種の中には、情報量が不十分なために、より高いカテゴリーに該当する可能性のあるものが含まれている。
5 選定結果一覧
北海道レッドデータブックの作成にあたり、植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)、哺乳類、鳥類、両生類・爬虫類、魚類(淡水・汽水、遡上魚)、昆虫の各分類群ごとに検討した結果、次のとおり、北海道に生息・生育する種数と、絶滅のおそれがあるなど保護上重要と考えられる種の選定結果をとりまとめた。
北海道レッドデータブック掲載数等一覧表
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注) 地域個体群(Lp)と留意種(N)は同じ種が重複して選定されている場合がある。
* 選定対象数は、選定にあたって評価対象とした種などの分類単位の合計数を示す。
** 植物では、品種・変種の数を含み、例えば道内に3つの品種が生育する種の場合は、1種2品種とし、選定対象数は3、種数は1として算定した。
*** 魚類・昆虫では、亜種の数を含み、道内に複数の亜種が生息する場合は、植物に準じて数を算定した。
6 今後の取り組みとレッドデータブック
道では、希少野生動植物の保護対策を推進するため、野生動植物の調査研究、自然環境の監視活動、道民への普及啓発など、これまでの施策の充実に努めるとともに、2001(平成13)年3月、「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」を制定したところである。
「北海道レッドデータブック」については、この条例の運用等に当たっての基礎資料とするとともに、その内容を広く紹介して、希少野生動植物の保護に関する道民等の理解と協力が得られるよう積極的な活用を図るものとし、今後も関連情報の充実に努めるとともに、必要に応じてレッドデータブックの見直しなどを行うものとする。
7 引用文献
IUCN(1994):IUCN Red List Categories(IUCN種の保存委員会作成)
IUCN(1996):The 1996 IUCN Red List of Threatened Animals(IUCN種の保存委員会(編)、IUCN)
環境庁(1991a):日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-(脊椎動物編) (環境庁自然保護局野生生物課(編)、財団法人日本野生生物研究センター)
環境庁(1991b):日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-(無脊椎動物編) (環境庁自然保護局野生生物課(編)、財団法人日本野生生物研究センター)
環境庁(1997a):レッドデータブックカテゴリー
環境庁(1997b):両生類・爬虫類のレッドリストの見直しについて(環境庁自然保護局野生生物課)
環境庁(1997c):植物版レッドリストの作成について(環境庁自然保護局野生生物課)
環境庁(1998):哺乳類・鳥類のレッドリストの見直しについて(環境庁自然保護局野生生物課)
環境庁(1999):汽水・淡水魚類のレッドリストの見直しについて(環境庁自然保護局野生生物課)
環境庁(2000a):改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-(植物1(維管束植物)) (環境庁自然保護局野生生物課(編)、財団法人自然環境研究センター)
環境庁(2000b):改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック-(爬虫類・両生類) (環境庁自然保護局野生生物課(編)、財団法人自然環境研究センター)
環境庁(2000c):無脊椎動物(昆虫類、貝類、クモ類、甲殻類等)のレッドリストの見直しについて(環境庁自然保護局野生生物課)
水産庁(1994):平成5年度希少水生生物保存対策試験事業報告書「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(1)」(水産庁委託、社団法人日本水産資源協会)
水産庁(1995):平成6年度希少水生生物保存対策試験事業報告書「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(2)」(水産庁委託、社団法人日本水産資源協会)
水産庁(1998):日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁編)(社団法人日本水産資源保護協会)
日本自然保護協会(1989):我が国における保護上重要な植物種の現状(我が国に おける保護上重要な植物種および植物群落の研究委員会植物種分科会(編)、財団法人日本自然保護協会・財団法人世界自然保護基金日本委員会)
日本哺乳類学会(1997):レッドデータ日本の哺乳類(日本哺乳類学会(編)、文一総合出版)