人生のあゆみ
服飾関係から農業への転身
関東で服飾関係の仕事をされていたお二人が、滝川市の恵介さんの実家にUターン就農したのは2014年。恵介さんの実家に戻って農業を継ぎたいという思いに、非農家出身の恵美さんは、農家のイメージが全然湧かなかったが、「北海道農業」の響きが良く、大自然の中で仕事をすることにも魅力を感じていた。(恵介さんが戻ることを先に決めちゃっていたのもあるが・・笑)
こうして、実家で就農することになったお二人だが、恵美さんにとっては、北海道も農業も初めて。漠然とありがちな「農家は大変」というイメージを持っていたが、実際にやってみると大変なのは体力面だけだった。植物や生き物を育てることが嫌いではなかったこともあるが、農業は意外と「わかりやすい」ので、ストレスも溜まりにくいと感じている。以前のデザイナーの仕事も好きだからできていたけど、今思えば大変だったと振り返る。この思いは恵介さんも同じようで、農業は、仕事のやり方や進め方、そして休みも自分で決められるので、大変だとは思っていない。
ただ、農業をする上で「女性」が大変な部分はある。それは情報が入りづらいこと、情報を発信する機会や場所が少ないことだった。また、家庭での役割が多く、学びの場への参加に制限を感じ、特に遠方で開催されるセミナーなどへの参加には家族の理解が絶対に必要と感じている。皮肉にも、今はコロナ禍でオンラインでのセミナーが普及したことで、情報交換の場が広がっていて、女性ならではの仕事・家庭での悩みなどを率直に話し合えるようになってきている。
価値ある作物は全てお金に
農場でできる大半の作物は農協へ出荷しているが、生鮮野菜など一部を道の駅で販売していたこともあった。道の駅では、出品したものが売れ残ってしまい、しなびた状態で返品されてくるケースがあり、もったいないと思っていた。こうした経験から始めたのが、野菜が並ばない直売所「うちの畑」。「うちの畑」は、農場に来てもらったお客さんと一緒に畑を見て回りながら、その日のいいものを収穫して販売するカタチ。開催情報の発信はSNSで行い、値段は道の駅などの価格を参考に決めている。「日曜日の午前中だけ」開催することで、二人の1週間の生活リズムづくりにもなっている。来客数は日にもよるが、3~20人くらい。天候に左右されるので、天気が悪くお客さんの少ない日は、単なる夫婦の休憩時間になることも(笑)。
お客さんの多くは、滝川市近郊の方だが、札幌から来られる方もいる。子供に収穫を体験させたいという親御さんもいて、トマト嫌いの人が「なかのふぁ~む」のもぎたてトマトなら食べられるという。
売れ残りがもったいないと始めたことだが、お客さんに「ここ」に来て、見てもらうことが値段以上の価値になった。畑を見てもらうことで、安心して買ってもらうことにつながると実感している。ここ2年はコロナ禍の影響により開催できずにいるが、リピーターのお客さんから、今でも野菜のほか、米などの注文もいただいている。
「ありのまま」を伝えたい
なかのふぁ~むでは、以前から恵介さんのお母さんが、自宅の加工場で無添加で搾油したなたね油の販売をしていた。恵介さんと恵美さんの代となった今では、搾油は委託しているが、自家産えごま油の販売をはじめており、健康も意識した商品として注目されている。加工品については、流行りにさせるのではなく、クチコミでじわじわとファンの信頼を得て、長く続くものにしたいと考えており、新たに自身で狩猟した鹿肉を使ったジャーキーなどの加工・販売も始めた。
お二人には、もともと家族に「いいもの」を食べさせたいという思いがある。「いいもの」のために、農家が栽培や加工に取り組む上で大切なことは、普通に普通のことをちゃんとやることだと考えている。そして、「ありのまま」を伝えることが消費者の信頼を得る近道だと思う。見た目だけ、キレイさだけにこだわっても意味はない。農薬の必要性なども含めて、消費者にも「ありのまま」を伝えることが大切だと考えている。
自分自身で決断して
他業種から就農してきたが、農業が大大大好きというわけではなく、家族が暮らしていくための仕事として意識している。ただ、矛盾かもしれないが、本物のみどり色を知ることができたり、風の強さを感じられたり、これが自分たちにとっては最高の職場環境でプライスレスだと感じる。自分たちが感じていることを、ここに来られた方にも同じく感じてほしいと思っている。農業は自然が相手なので、大変なことも多いが、心の豊かさにはつながると思う。
就農に向けて準備をする際や就農してからも、いろいろなものを見て、いろいろな人の話を聞いて、吸収して、何が価値で、何がやりたいことなのかを見つけ出してほしい。ただ、初期投資も大きいので、一度始めたらなかなか辞めるのは難しい面もある。
このインタビューが誰かの就農への「きっかけ」になってくれるのであればいいが、「決め手」にはしないでほしい。農業をするかどうかは、自分自身の将来のこと。しっかり考えて、決断してほしいと強く願っている。