Ⅳ. 「好きな仕事が出来て とても幸せ」

人生のあゆみ            

反抗期もあったが農業が大好き    

旭川市東旭川町で生まれ育った佐藤さんは、小さい頃から実家の田んぼや畔が遊び場。農業を営む父親が運転するトラクターにも同乗させてもらうなど、農作業の手伝いを通じて、農業に慣れ親しんできた。農業が大好きで、朝早くから夜遅くまで作物と向き合う父親の背中を見て育ってきた。

やがて反抗期を迎えた少年時代は、実家の跡を継ごうとは思わず、地元の工業高校に進学した。

高校3年生の夏になると、皆が卒業後の進路について考えだし、佐藤さんも自分の進む道について考え始めた。そして、やっぱり子供の頃から大好きな農業をやりたいという想いから、高校卒業後は、北海道立農業大学校の稲作コースに進学。父親の跡を継ぐことを決意した。

 実家の後継ぎとして就農した後は、父親からは「仕事は手を抜くな!作物と話ができるようになるくらい観察しろ!」と教わり、そうなれるように今でも日々努力している。

現在、佐藤さんの農場では、水稲をメインに栽培しており、その他にも春小麦や大豆、ハウスでピーマンなどを栽培している。この野菜等を含めた複合経営は、父親の代に始めており、所得の確保につながっている。

水稲のみの単作の場合、2021年のように米価の下落があると経営が苦しくなってしまうが、ほかに畑作や施設野菜などの作物が加わることで、リスクが分散され、経営が安定するように工夫している

現在、佐藤さんの長男は、佐藤さんが“農業のいろは”を学んだ、北海道立農業大学校に在学。卒業後は、実家の経営を継ぐ予定で、今後5年間のうちに長男への経営継承、面積拡大や法人化を考えている。

佐藤さんは、「昔から、将来やりたい仕事を考えて、自分で高校を選びなさい」と言ってきた。高校卒業後の進路についても、4年制大学も勧めたが、長男の意志で農業大学校への進学を決めた。

将来について遊び心で「果樹もやってみたいよね」と長男と話をしている。実際に“できる”“できない”に関係なく、これからの佐藤農場の将来の「夢」を二人で語り合っている。

 そう笑顔で語る佐藤さんからは、大好きな農業を長男と一緒にできる喜びが伝わってきた。

 

目指すは新しい産地づくり      

東旭川町は、米、畑作、施設野菜、畜産など、様々な農業が行われており、周りには旭山動物園や工業団地もあって、とても住みやすい地域。この町で生まれ育った佐藤さんは、地域振興のプロジェクトチームの要職を担い、東旭川農業の発展に尽力してきた。

「この東旭川地域があっての僕らだと思っています」と語る佐藤さんは、地域やそこに住む農業者、そして農協も大切にしていきたいと考えている。

今は、個人でなんでも自由に販売ができる時代。農家一人だけで儲けようと思えば、農協を通さずとも、努力すればいくらでも稼ぐことができる。自分一人で販売することも大変だと思う、しかし自分だけ良い思いをすればいいというのは、佐藤さんが考える農業とは違う。

 佐藤さんが考えるこれからの東旭川の農業、それは、地域で協力して従来の農作物に加え「新しい作物の産地」を作ることだ。大きい産地じゃなくていい、「東旭川に行けば、トマトやピーマンなど色々あるよね!」と言われるように他地区には無い作物の産地を作って、農作物のバラエティ豊かな地域にしていきたい。その一つの新たな取組みとして、2020年にサツマイモ(シルクスイート)の栽培を始めた。

これから、この地域の農家は、米に次ぐ作物を探していかなければならない。しかし、個人で頑張っても限界があるので「みんなで頑張って、みんなで生産してみんなで儲ける方が良い!」。この地域のため、未来の自分や後継者達のために「新しい産地」を作りたいと考えている。

 東旭川でも他地区と同じように後継者、担い手不足で1戸当たりの耕作面積が拡大し負担は増加。東旭川でも法人化は進んでいるが、やはり「地域あっての法人で、法人あっての地域」だと思う。この地域をどう少人数で守れるか、今後、まだまだ地域みんなで考えて行かなければならない。

 

目標(夢)を大切にしてほしい    

 佐藤さんがこれまで農業に従事して思うのは、自分が好きな仕事が出来るということは、とても幸せだということ。だからこそ、頑張り続けられる。

農業は、頑張れば頑張るだけ自分に返ってくる。これからも手を抜かずに頑張って行きたい。

佐藤さんが身に付けた方が良いと考えるスキルは「経営力」。一度、会社勤めをされて、Uターンで就農した人の方が、視野が広く考え方に柔軟性があり、経営展開が上手に見えることがある。佐藤さんは、これまで経営については、父からしか教わっていない。昔ながらの農業の考え方も大事であるが、農業経営も会社経営と同じで、経営力をしっかり身に付けておいた方が柔軟性のある経営展開が出来るのではないかと言う。

自分自身の経験もあり、経営継承を予定している長男には「法人経営のノウハウを学んで来い!」と言っている。農業の栽培技術は学校でも、または就農してからでも学べるが、経営力を身に付けるのは、なかなか難しい。学生だからこそ色々な法人が受け入れをし、教えてくれるので、こうした機会を大切に学んで欲しいと思っている。               

 そして、これから新規就農する人は、「夢」をいっぱい持つことを大切にして欲しい。「夢」がないと、ただ作物を作っているだけになってしまう。大きい「夢」を持ち努力し、たまには壁に当たっても、挫折しないように頑張ってほしい。ただし、現実を見て、叶わない夢もあることを理解することも必要。「夢だけにならないように努力してほしい」と話す。

 

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