1 救急医療情報システムの概要と現状
(1)救急医療情報システムの導入の背景・契機
国が昭和52年に定めた「救急医療対策実施要綱」を受け、道においては、昭和55年に策定した北海道保健医療基本計画において、救急医療体制の体系的な整備と救急医療情報システムの開発を進めることとし、昭和57年から医療情報システムの構築について調査・検討を行い、昭和60年に救急医療情報システムとして、当時最先端であった「キャプテン」方式の導入を決定し、昭和61年10月からその運用を開始した。
(2)救急医療情報システムの目的・内容等
医療機関、消防機関、救急医療情報センターを「キャプテン」方式のコンピュータで結び、医療機関が端末機で入力した情報を、地域コンピュータセンター(全道5か所)経由で中央コンピュータセンター(札幌市)に集積し、道民に対しては、情報案内センターが24時間体制で医療機関情報の提供を行うとともに、消防機関や医療機関に対しては、救急搬送や転院搬送に必要な医療機関情報の提供を行うものである。
(3)救急医療情報システムの運営状況
○ 道民からの情報案内センターへの年間照会件数は、全道ネットワーク完成の平成元年度に64,061件であったものが、平成9年度には92,065件と大幅に増加している。
○ 医療機関における年間情報入力件数及び照会件数は、ともに昭和63年度の入力26,130件、照会18,352件をピークとして年々減少しており、平成9年度にはそれぞれ8,419 件、5,288 件とピーク時の約3分の1となっている。
また、消防機関の利用も昭和63年度の15,453件をピークに年々減少しており、平成9年度の照会件数は、5,349 件とピーク時の約3分の1となっている。
○ 端末機の設置は、平成元年度には、医療機関1,667 台、消防機関172 台の合わせて1,839 台設置されていたが、年々減少し平成9年度には1,558 台(平成10年6月現在1,500台)となっている。
(4)救急医療情報システムの再評価の必要性
道民の情報案内センターへの電話照会が増加している一方で、端末機設置の医療機関や消防機関における情報の登録や照会が減少していることからシステム全体として機能低下がみられることから、パソコンやインターネットの普及など、現行システムを取り巻く環境が大きく変化する中で、新たな時代に即した救急医療情報システムのあり方について検討するため、再評価を行うこととしたものである。
2 救急医療情報システムの再評価の内容
(1)救急医療情報システム再評価に当たっての基本的な考え方
現行システムの機能や仕組みなどの問題点について分析・検討を行うとともに、道民や医療機関、消防機関の意向や、他都府県の状況調査に加え、市町村や関係団体からの意見の聴取を行うなど、新たな時代に即した救急医療情報システムのあり方について、多角的・多面的な視点から検討を行うこととしたところである。
(2)北海道総合医療協議会からの提言
現行システムの問題点とその対応方向について、次のような報告がなされている。
○ 端末機のパソコンへの移行による、操作性の向上や処理時間の短縮等を図る。
○ 必要とされる情報を精査し、データー項目の見直しを図る。
○ 登録情報の更新履歴等の表示や、未更新の場合のチェック機能を検討する。
○ 各医療機関の診療機能や各種医療情報の掲載など、付加価値情報を拡充する。
(3)救急医療情報システムの再評価のための調査
ア 道政モニターに対する調査
○ 休日や夜間に診療してくれる医療機関が分からず困ったことがあるかについては、「ある」が37.2%、「ない」が62.3%となっている。
○ 今後の救急医療情報の入手方法として、「電話のほかインターネット」の24.0%と「電話のほかファクシミリ」の47.0%を合わせると71.0%となり、「電話のままでかまわない」の20.6%を大きく上回っている。
○ 情報案内センターがなくなった場合の影響は、過半数の51.1%が「影響がある」としており、「影響がない」の18.5%を大きく上回っている。
イ 医療機関に対する調査
○ システムの利用状況については、平成9年度に端末機を「全く使用しなかった」は、77.4%となっており、「ほぼ毎日使用した」と「時々使用した」を合わせた6.1%を大きく上回っている。
○ 災害時や広域搬送時に情報を入手するための情報通信ネットワークの必要性については、「必要である」と「あった方が良い」を合わせた73.6%が、「必要ない」の23.8%を大きく上回っている。
○ システムの今後の方向性については、「改善して運営を続ける」が37.7%、「必要最小限にして運営を続ける」が32.2%、「現行のまま続ける」が6.3%となっており、「必要ない」は15.8%となっている。
ウ 消防機関に対する調査
○ システムの利用状況については、平成9年度に端末機を「全く使用しなかった」は、45.9%となっており、「ほぼ毎日使用した」と「時々使用した」を合わせた19.1%を大きく上回っている。
○ 災害時や広域搬送時に情報を入手するための情報通信ネットワークの必要性については、「必要である」と「あった方が良い」を合わせた73.9%が、「必要ない」の24.8%を大きく上回っている。
○ システムの今後の方向性については、「改善して運営を続ける」が47.8%、「必要最小限にして運営を続ける」が24.8%、「現行のまま続ける」が4.7%となっており、「必要ない」は19.1%となっている。
エ 市町村に対する調査
○ 救急医療に係る情報通信ネットワークの必要性は、「必要」「あったほうが良い」を合わせて85.6%となり、「必要ない」とした13.4%を大きく上回っている。
○ システムの今後の方向性については、「改善して運営を続ける」が35.1%、「必要最小限にして運営を続ける」が24.3%、「現行のまま続ける」が15.3%となっており、「必要ない」は18.8%となっている。
オ 他都府県に対する調査
○ 46都府県中36都府県が既にシステムを導入しており、今後予定の6県を含めると導入は42都府県となっている。
○ システムを導入している36都府県中28府県が既に見直しを行っており、うち19府県がシステムの機器の見直しを行っている。また、見直しを行った28府県中22府県が再度の見直しを予定している。
(4)救急医療情報システムの再評価のための意見聴取
ア 北海道医師会の意見
情報登録や検索作業が簡便なパソコンを使用し、通信回線はインターネットを活用した、専門性の高い情報項目が提供できるシステムの構築が望ましい。
イ 北海道歯科医師会の意見
時代に合ったインターネットなどのオープンなシステムとすべきである。
ウ 北海道市長会の意見
現状では、優先する必要性は乏しいが、「最新医療情報の取得」「双方向の意志確認」「大規模災害にも対応」「低コストの実現」などが可能なシステムとすべきである。
なお、休止・廃止する場合には、代替措置が必要である。
エ 北海道町村会の意見
システムの構築は極めて重要な課題であり、廃止の場合には緊急時の迅速な対応が困難となることから、現行システムの欠陥を是正し、新たなシステム設計を早急に進めるべきである。
(5)救急医療情報システムに対する再評価
ア 必要性・妥当性
急な病気やけがなどの緊急時には迅速な救急医療機関情報の提供を行う必要があり、全道をネットした情報の一元的な収集と管理により、的確な情報提供を行う「情報案内センター」の必要性は大きなものがある。今後、情報内容の充実と情報提供の方法としてインターネットやファクシミリを採用するなど、道民にとってさらに使いやすいものとする必要がある。
また、救急医療体制はその機能分担に応じた医療提供が求められており、その求められる救急医療も専門化・高度化し、救急搬送も広域化する傾向にある。こうした状況下で、迅速かつ的確な救急搬送・転送を行うには、医療機関や消防機関が必要な情報を収集・提供する情報通信ネットワークが不可欠となっている。
現在のシステムの「キャプテン」方式が十分機能しない中で、医療機関や消防機関が独自に入手する情報は内容や対象地域が限定されており、災害時や広域搬送時などの緊急時には、迅速性や的確性の面で十分とは言い難いものがあることから、道が主体となり、より広域で正確な情報を提供するシステムを運営していく必要があると考える。
なお、国は、災害時の救急医療情報の収集・提供体制の整備を求めており、危機管理対応の一環として、道が今後ネットワークに参加していくためにも、情報システムの必要性は大きいと考える。
イ 優先性・効果
年々増加をたどっている交通事故や急病による救急患者に対し、迅速かつ的確な医療を提供していくためには、医療機能の充実とともにその医療機能を十分活かすための仕組みとして、救急医療情報システムの整備の優先性は高いものと考える。
現行のシステムが操作性の劣る「キャプテン」方式によるため、十分機能していないことから、新たなシステムによる再構築が急がれている。
ウ 住民意識
道政モニターの調査結果では、4割近くが、「休日や夜間に救急医療機関がわからずに困ったことがある」とし、また、過半数が情報案内センターがなくなった場合には、「生活に大きな影響がある」と回答している。一方、7割が「ファクシミリやインターネットも利用したい」と回答している。
このことは、日常生活を安心して営んでいくための救急医療情報の必要性を示すとともに、情報入手手段の多元化や利便性の向上を求めていることを表しており、「情報案内センター」の果たす役割は大きなものがあると考える。
エ 代替性
救急医療機関情報の収集や提供を、電話やファクシミリなどにより対応することも可能であるが、広域搬送や大規模災害発生時における対応は十分とは言えず、全道的なネットワークにはなり得ない状況となっている。
このことから、救急医療機関の端末機から入力された情報を一元的に集約し、住民や消防機関などの利用者が活用しやすい形に処理した上で、必要に応じ情報提供を行っていく現行の仕組みが、現状においては最も効率的であると考える。
3 救急医療情報システムを廃止した場合の影響
個々の道民は、休日や夜間に救急対応医療機関をみつけるため、現在、年間9万2千件にも達している情報案内センターへの照会ルートが閉ざされ、さらに、自分で医療機関に行くことが可能な軽症患者が救急車に依存するケースが増加することも予想される。
また、救急搬送に際しては、医療機関や消防機関が独自のルートに頼るしかなく、広域災害や大規模事故には十分な対応ができない恐れがある。
さらに、国が進める「広域災害・救急医療情報システム」に参画する場合に、新たに情報通信ネットワークの構築を要することになる。
4 救急医療情報システムに係る検討結果
(1)所管部としての考え方
道は、初期救急医療から高度救急医療に至る体系的な救急医療体制の整備を進めており、それが、効果的・効率的に機能を発揮するためには、必要な情報を一元的に収集・提供する救急医療情報システムは不可欠なものである。しかし、現行の救急医療情報システムは、
「キャプテン」という操作性の劣る閉鎖的な方式を採用しているため、医療機関や消防機関の利用が年々低下しており、十分にその機能を果たしているとは言えない状況にある。
こうした中で、医療機関や消防機関は独自の情報ルートにより対応しているが、道民がどこに住んでいても適切な医療サービスが受けられることや、災害発生時や広域搬送に的確に対応するためには、道が主体となり、救急医療情報システムを新たな方式に転換した上で継続する必要がある。
新たなシステムへの転換にあたっては、救急医療に関する総合的な情報ネットワークの構築や、情報案内センターの道民への情報提供の多チャンネル化を図る必要がある。
(2)新しいシステムの方向
救急医療情報システムについては、現行の「キャプテン」方式から、情報の検索が簡単で情報処理能力に優れたパソコンに変更するとともに、インターネットを活用し、機能面や利便性の向上を図ることとする。また、道民に対しては、現在の電話による情報提供に加え、ファクシミリやインターネットなどの複数の媒体による情報提供を行うこととする。
このほか、新しいシステムは、広域災害に対応できる機能の導入や、救急対応医療機関を中心とした端末機の設置などについて、配慮することとする。