平成11年3月11日
北海道建設部
第1 「道道士幌然別湖線の整備」の概要
1 事業の背景、概要、経過など
(1)当初ルート
ア 町道としての整備
士幌高原の山麓に位置する新田地区は、昭和30年頃まで一部の農地を除き、農耕不適地といわれていた。昭和27年に国から警察予備隊(現自衛隊)の演習場用地としてこの地域一帯を買収したいという申し入れがあったが、この地域は畜産振興の基地としての開発構想があり、士幌村の盛衰にも関わることであるから、国に撤回を要請した。
演習場買収申し入れが撤回され、新田地区開拓計画が着手された頃、将来構想として、新田地区を通って然別湖へ通じる道路をつけようという意見が強く持ち上がり、昭和38年に町道として整備することを決定した。
昭和30年代当時、この道路の目的は以下の通りである。
・山火事対策として
・木材の運搬用道路として
・士幌より然別湖へ直結するレクリエーション道路として
・経済活性化対策として
昭和40年には、大雪山国立公園の公園計画決定、及び公園事業決定がされ、本道路の公園事業としての執行承認もおりた。
昭和41~44年、士幌町は、本道路を士幌然別間道路として、国庫補助事業により施工した。(開削延長 約2,400m)
イ 道道としての整備
昭和44年、北海道は「士幌町から主要な観光地(然別湖畔)に連絡する道路」として、本道路を道道士幌然別湖線として認定した。
昭和45年から、道は国庫補助事業として整備を進め、昭和47年度まで、延長で約440mの開削を行った。
昭和47年前後、関係団体等から、本ルートの通過する地域が大雪山国立公園の特別地域であり、貴重な自然環境を有することや、既に開削した区間の道路法面についての処置が十分ではないとの理由で、新たな道路開削への反対運動が起こった。
このため、道では昭和48年度以降、新規開削を中断することとし、既開削区間の法面保護工事及び緑化工事を取り進めることとした。
(2)駒止トンネルルート
ア 事業の概要
北海道は、昭和53年から56年にわたり周辺地域の自然環境調査を行った。これらの調査を基に道路計画上及び自然環境保全上の観点から総合的に判断して当初ルートを駒止トンネルルートに変更し、そのルートが自然環境に及ぼす影響を予測・評価して昭和56年に「自然環境調査報告書」に取りまとめた。
駒止トンネルルートは、北海道環境影響評価条例の特定開発事業に該当しないが、新規開削工事を一時中断した経緯などから、条例の趣旨に沿って、公告、縦覧、説明会や、学識経験者から構成される検討会議における審議など、必要とされる一連の手続きを行い、昭和63年9月に終えた。
(3)全線トンネルルート
ア 事業の概要
「駒止トンネルルート」による北海道環境影響評価条例に準じた手続きを終了した昭和63年以降、検討会議の提言等を踏まえ必要な調査を進めてきたが、地元町をはじめとして地域の方々から早期完成について強い要望がある一方で、道路は不要である、ナキウサギ等の貴重な動植物に影響を及ぼすなどの趣旨で、この計画の中止等を求める声が上がるなど、様々な議論があった。
このような経緯などを踏まえ、道としては、既に条例の趣旨に沿った手続きを終了した「駒止トンネルルート」と比較し、さらに自然環境への影響を可能な限り最小化するため、地表面の開削区間をより減少させた「トンネル案を基本としたルート」を選択し、整備を進めていくこととした。
このため、過去に実施してきた環境調査の結果等を十分検討するとともに、道路計画上や建設技術上の観点も含めて、総合的に検討を行い、平成6年12月に「全線トンネルルート」を選定の上、公表した。
また、大雪山国立公園は、平成6年から7年にかけて、公園の適切な保護及び利用を図るため、公園区域全体にわたり公園区域や公園計画の再検討が行われた。
平成7年5月に自然環境保全審議会の答申が出され、8月に公園計画変更決定が告示され、士幌然別湖線の全線トンネルルートは公園計画車道と位置づけられた。
ただし、自然環境保全審議会の答申の際、次の3点に留意する必要があることが申し添えられた。
・トンネルルートの地形、地質については、未解明な点も残されているので、それらの点に関し、専門家の意見も踏まえ、慎重に調査検討を行うこと。
・トンネル工事に伴う周辺環境への影響及び排ガスが動植物に及ぼす影響等供用後の自然環境への影響について、事前に十分検討を行い、必要な対策を講ずること。
・然別湖畔地区については、山岳と湖沼と亜高山植生による優れた自然環境を構成しており、適正な保護のもとに、その特性を踏まえた自然とのふれあいの場として活用していく必要がある。かかる観点から、既存道路を含む利用施設の整備には慎重な配慮を払うとともに、適正な利用に努めること。
イ 公費違法支出差止請求事件の経緯
八木健三氏他20名の方が、平成8年6月26日に札幌地方裁判所に対し、北海道知事を被告として、公費違法支出差止請求を提訴した。
訴状によれば、本件道路は、生物の多様性に関する条約に違反、環境基本法に違反、文化財保護法に違反、北海道自然環境保全指針に違反、必要性の全くない道路とされている。
現在までに口頭弁論が12回、現地検証及び弁論準備手続きがそれぞれ1回行われており、原告の主張に対し、被告である道が反論をしている状況である。
2 施策の再評価をもたらした要因など
(1)公共事業を巡る経済社会情勢の変化など
ア 北海道を取り巻く経済社会情勢の変化
現在、本格的な少子・高齢社会の到来、高度情報化、国際化の進展など、経済社会情勢が大きく変化し、道民の意識や価値観も多様化している。
このようななかで、道は新しい北海道づくりのために、今後の道行政の基本的指針となる「第3次北海道長期総合計画」をスタートさせるとともに、様々な行政課題に対応した諸施策を着実に進めるために、「道政改革の実施方針」に基づいた、簡素で効果的な行財政運営の確立を進めている。
行政面では、多角的・多面的に再評価を行う「時のアセスメント」を制定し、時代の変化に対応した道政の実現に資することとし、平成10年度には、「時のアセスメント」の精神を道政全般に拡大した「政策アセスメント」を制定し、北海道のすべての事業について政策的な視点から点検・評価する政策評価に取り組むこととした。
イ 建設省所管公共事業の再評価実施要領など
社会経済情勢の変化の中で、近年、公共事業のあり方について様々な観点から厳しい批判がだされるようになった。
そのため、国において、公共事業の再評価システムの導入と事業採択段階における費用対効果分析の活用などについての要領である「建設省所管公共事業の再評価実施要領」と「建設省所管公共事業の新規事業採択時要領」を策定した。
(2)環境保全についての情勢の変化など
我が国において、昭和30年代から40年代にかけて、公害の発生やレジャー施設の開発等による自然の改変が大きな社会問題となった。50年代に入ると、都市型・生活型公害の問題が生じる一方、身近な自然とのふれあいなど緑豊かなうるおいのある快適な環境についての道民のニーズが強くなってきた。
そして、近年、地球温暖化、酸性雨などの地球規模の環境問題が生じており、将来の世代により良い地球環境を継承し得るかということが、現在の世代の重要な課題となっている。
以下に、近年の本道における環境保全についての条例等を記す。
・北海道自然環境保全指針の策定(平成元年)
・北海道環境基本条例の制定(平成8年)
・北海道環境配慮指針〔公共事業編〕の策定(平成9年)
・北海道環境基本計画の策定(平成10年)
3 本事業計画についての推進・反対団体等の動向
(1)推進団体等の動向
陳情等については、要請、陳情等が67件、個別広聴が27件、道政モニターが4件となっている。
署名については、平成元年に士幌高原道路促進勝手連より、署名数5,838名、平成4年に士幌然別湖線早期完成を求める会より、署名数20,036名となっている。
(2)反対団体等の動向
陳情等については、要請、陳情、質問等が113件、個別広聴が91件、道政モニターが7件となっている。
署名については、平成4年に大阪の高校生より、署名数102名、平成4年~11年にかけて、北海道自然保護協会、十勝自然保護協会、北海道自然保護連合より、署名数120,456名(1992.11からの旧署名簿による署名)、83,837名(1996.12からの新署名簿による署名)となっている。
なお、この集計は平成11年2月までの建設部道路計画課で把握できたもののみである。
第2 「道道士幌然別湖線の整備」の再評価
1 必要性
(1)道路整備の必要性
ア 「道路ネットワークの形成」からみた必要性
然別湖周辺を取り巻く道路網については、国道 273号が東に、国道 274号が南に周回し、然別湖のアクセス道路としては主要道道鹿追糠平線の1路線のみである。多くの幹線道路は、然別湖の南から帯広、音更方面に集中しており然別湖畔をとりまく道路ネットワークは極めて脆弱である。
また、鹿追糠平線の国道274号~然別湖畔間には、車道幅員が3.6mの未改良区間が約1kmあり、この区間については沿線の自然環境を保全する上での課題が多いことから、改良工事を行うことは困難な状況にある。さらに、糠平~然別湖畔間は線形不良及び狭小幅員のため未除雪区間であり、冬期は完全に通行止めとなっている。
これらのことから、然別湖周辺における道路ネットワークを形成していくうえで、士幌然別湖線の整備の必要性は認められる。
イ 「生活交流圏の拡大」からみた必要性
然別湖畔には、30世帯、36人の方が暮らしており、買い物や通院などの日常生活においては、主に鹿追市街地の施設を利用している。士幌然別湖線の整備によって、自家用車を中心とした行動圏の広がりなどが期待できる。
ウ 「地域振興方策の支援」からみた必要性
圏域の振興策として主たる分野は、農業を中心とした産業振興、生産機能とリンクした観光振興、地域間の交流の促進と考えられる。
このうち、道路整備の面では、士幌然別湖線、士幌高原~ナイタイ高原を直接結ぶ道路の整備があげられており、士幌然別湖線などの道路整備により、各観光拠点を結ぶ滞在型、交流体験型ゾーン形成などの地域展開の可能性がある。
エ 「観光振興」面からみた必要性
圏域の観光についてみると、然別湖、糠平湖、ナイタイ高原などの観光拠点があるが、その間のネットワークは十分とはいえない状況にあり、さらに、冬期においての糠平~然別湖畔間の通行止めがネックとなっている。
士幌然別湖線の整備により、新たな半日・1日周遊ルートの設定など圏域内周遊ルートの多様化が図られることも想定でき、圏域内の魅力度の向上に資する可能性がある。
また、広域観光ルートの形成という視点からみると、士幌然別湖線の整備による観光面での効果としては、冬期のアクセス向上が期待できる、通過利用が容易となる、時間短縮効果により立寄場所を増やすことができるなどのメリットが考えられる一方で、単に道路整備だけでは効果がなく、景観の整備、観光資源の整備、観光客の収容施設の整備等をあわせて行う必要があるという指摘がある。
これらのことから、士幌然別湖線の整備は、それのみではなく、宿泊施設や各種体験施設等の整備と一体となって行われることにより、観光面での効果が現れる可能性がある。
(2)住民意識などからみた必要性
道民意識調査の結果より、地元3町の住民は、士幌然別湖線が開通した場合の変化について、プラスあるいはマイナス面の変化があると考えている人と無いと考えている人が全体としてほぼ拮抗した結果となっている。
2 妥当性
(1)道路計画の妥当性
ア 道の関与のあり方について
士幌然別湖線は、昭和44年に道道として認定され、管理を道路法第15条の規定により、北海道が行っているものであり、道の関与のあり方は妥当である。
イ 道路計画内容の妥当性
「全線トンネルルート」の道路規格、平面・縦断線形などについては、道路構造令に則って計画されており、その道路計画の内容については妥当である。
ウ 大雪山国立公園との係わり
士幌然別湖線は、平成7年8月に変更された大雪山国立公園の公園計画(利用施設計画)において、「然別湖方面への到達道路として整備する車道」と位置付けられており、公園計画上妥当なものといえる。
(2)自然環境の保全という面からみた妥当性
ア 「全線トンネルルート」選定の考え方
「全線トンネルルート」については、自然環境に直接影響を与える地表面の改変は、トンネル出入り口が予定されている既存道路の法面のみであり、また、改変される地表面の面積も小さいことなどから、環境への影響の程度について大幅に低減するルート案と考えたものである。
さらに、環境へ与える影響について、具体的に明らかにするために、動物、植物など各環境要素ごとに検討を行った結果、環境に与える影響については、可能な限り最小化できるものと判断したものである。
イ 自然環境保全審議会の留意事項などへの対応
大雪山国立公園の公園計画の変更に際し、自然環境保全審議会から3点の留意事項が付され、道はこの留意事項などに対応するため、水平ボーリングや植生、ナキウサギなどについての種々の調査を行ってきた。これらの結果から、風穴やナキウサギなどの貴重な動植物などへの道路整備による影響は、ほとんどないものと考えられる。
ウ 北海道自然環境保全指針などとの係わり
本道路が関係する「すぐれた自然地域」は、然別湖周辺であり、「すぐれた自然の要素」としては、東ヌプカウシ山周辺、然別湖周辺に位置するナキウサギ、シマフクロウや、東ヌプカウシ山周辺に位置するカラフトルリシジミなどが掲げられている。
全線トンネルルートとしたことで、道路の大部分が地中となり、地表面の改変はトンネル出入口周辺にとどまることとなり、また、いずれの抗口も既存道路の法面に位置していることから、「すぐれた自然の要素」やその周辺環境への影響を最小限にすることができる。
したがって、全線トンネルルートは北海道自然環境保全指針の趣旨を十分尊重したものである。
また、近年本道においては、環境基本計画、環境配慮指針などが策定されているが、全線トンネルルートは環境への負荷の低減や良好な自然環境の保全に努めているものであり、これらの計画などの趣旨に沿ったものである。
(3)住民意識などからみた妥当性
意識調査の結果より、自然環境はまちの大切な財産であると考えている人が、同時にまちの活性化が必要であると感じ、地域格差の是正が必要であると感じている。
そのようななかで、自然は大切な財産であると考えている人の中に「道路整備を行う際、自然環境に対する配慮のための費用をいくらかけても良い」、「いくらかけても自然は守れない」と考えている人が見られるものの、「ある程度の範囲で配慮するのが良い」という人が最も多くなっている。
3 優先性
(1)周辺地域における災害、事故などの発生状況
ア 鹿追糠平線通行止めの状況
鹿追糠平線は、過去10年間で6回通行止めとなっており、いずれも24時間以内に解除となっているが、平成元年のケースは全線に渡って通行止めとなった結果、然別湖畔温泉が丸一日孤立化した。
また、平成6年4月には、扇ヶ原展望台で全層雪崩が発生し、一時通行止めになった。また、平成11年3月6日には、平成6年と異なる箇所で、表層雪崩が発生し、一時通行止めになった。
このようななかで、士幌然別湖線の整備が図られることは、地域における安全性や、湖畔住民などの安心度の向上に資することとなる。
イ 交通事故・緊急事態の発生状況
鹿追糠平線においては、平成2~8年の7年間で16件の交通事故が発生しており、1名の方が亡くなり、16名の方がけがをしている。また、然別湖畔温泉からの緊急搬送者は、年間数名が記録されており、ほぼ全員が鹿追町国保病院に搬送され、ごく稀に帯広市に転送される。
士幌然別湖線が整備された場合、然別湖畔温泉からの距離は、士幌町国保病院の方が鹿追町国保病院より近くなることから、緊急搬送先の選択肢が広がることとなる。
(2)長期計画等との関わり
道路整備五箇年計画や第3次北海道長期総合計画の方向性に沿ったもので、計画の推進に資するものであると考える。
(3)事業の経過について
本路線の整備は、昭和45年度から国庫補助事業として始められ、平成8年度まで継続して実施されてきた。この結果、士幌然別湖線の延長21.6kmのうち、残された区間は約2.6kmとなっている。
(4)経済社会情勢の変化への対応
公共事業を巡る経済社会情勢は近年大きく変化してきており、事業実施の検討にあたっては、費用便益分析の結果や地域住民などからの要望・意見などに十分配慮を行う必要がある。
4 効 果
(1)費用に対する効果
ア 費用便益分析
(ア) 費用(事業費・維持管理費)
事業費 | 維持管理費 | 合計 | |
基準年 | 平成11年 | ||
採択年 | 平成15年 | ||
単純合計 | 91.09億円 | 5.34億円 | 96.43億円 |
基準年における現在価値 | 70.21億円 | 1.79億円 | 72.00億円 |
検討年数は供用開始後40年とし、現在価値算出のための割引率は4%としている。
(イ) 効果
走行時間 短縮便益 |
走行経費 減少便益 |
交通事故 減少便益 |
合計 | |
基準年 | 平成11年 | |||
供用年 | 平成22年 | |||
初年便益 | 2.60億円 | 0.27億円 | 0.07億円 | 2.94億円 |
基準年における現在価値 | 34.35億円 | 3.80億円 | 0.99億円 | 39.14億円 |
(ウ) 費用便益
以上のことから、直接効果による費用便益分析の結果は以下のようになる。
費用便益比(CBR) B/C = 39.14/72.00 = 0.54
イ 貨幣化できる間接効果
道路整備に伴う間接効果として次の4つの効果を掲げることができる。
・道路の供用から市場経由で波及する効果
・道路の交通機能に対応する外部効果(外部効果)
・道路の供用に伴う環境質の変化(外部効果)
・道路空間が交通以外に利用される効果(外部効果)
このうち、道路の供用から市場経由で波及する効果として、貨幣化が可能な、一次産品の販売額増加による効果と観光客の増加による効果を、多くの前提条件を設けながら算出すると、平成22年から61年までの40年間における間接効果
は、評価の基準年(平成11年)の現在価値として、約44億円となる。
ウ 定性的な間接効果
イにあるとおり、道路整備に伴う間接的な効果は様々なものがあるが、貨幣化あるいは定量化できないものが多い。
ここでは、定性的な効果(プラス効果・マイナス効果)として想定される項目を掲げる。
・道路の交通機能に対応する外部効果(生活機会の増大、地域セキュリティの増大、災害時の対応機能の増大、自然環境へのアクセス性の向上)
・道路の供用に伴う環境質の変化(道路が開通することによる(騒音、振動、大気汚染などの変化、自然景観の変化、自然環境の変化))
エ その他
事業効果を検討する際には、鹿追糠平線の整備に要する費用についても、考慮する必要があるものと考えられる。
(2)住民意識などからみた効果
意識調査からは、公共事業の実施にあたって配慮すべき事項について、全地域で「経済的な面からみた事業の効果」が上位に掲げられている一方、「経済的な面以外の事業の効果」は下位となっている。
5 住民意識
(1)道民意識調査の結果
全体として、自然環境を大切にすることへの意識が高く、公共事業の実施に際しては、自然環境への配慮を十分に行い、地域の活性化に寄与する経済効果のある事業を行うことを求めているといえる。
(2)手紙、インターネットなどに寄せられた意見の主なもの
道路建設に反対の意見としては、自然環境に影響がある、道路を建設する必要がないなどが主である。
道路建設に賛成の意見としては、地域振興に必要である、地元の願いであるなどが主である。
(3)地元自治体、関係団体の意見
・地元自治体
地元自治体として、士幌町、上士幌町、鹿追町に「本事業の今後のあり方、及びその理由」についての意見を求めた。
士幌町からは、「地域住民の切実な願い」、「自然にやさしい道づくりのモデルとして」、「豊かな農村づくりのために」、「十勝全体の」願いなどの観点から、
「これまでの経過、地域の切実な願い、地域発展への波及効果などを充分お汲み取りいただき、この士幌高原道路の一日も早い完成をお願いする」との意見が提出された。
上士幌町は、「本路線がすみやかに工事の着工されるよう強く望む」とし、同時に、「当地域は大雪山国立公園内であり、地域のすぐれた自然環境の特性に配慮した工法で施工されるとともに、工事完了後も周囲の自然環境の調和を図り、万全な監視体制のもとで本地域の自然環境保全に努められるよう特段の配意」を求めている。
また、鹿追町は、本地域は国立公園内であり国民の財産であると同時に地域の生活者にとっても道路ネットワークの形成は重要とし、「過去の調査や道民意識調査の結果に十分配慮された工事の促進を望む」との意見を提出した。
・関係団体
関係団体として、北海道が全線トンネルルートを表明して以来、このルート案について意見をいただいた道内の団体に、地元自治体と同様の意見を求めた。
この中で、十勝自然保護協会(会長:及川 裕)は「士幌高原道路はムダな公共事業であり道路計画の白紙撤回を宣言すること」との意見を出した。
北海道自然保護協会はア 大雪山と士幌高原道路に対する基本認識、イ 時のアセスで検証すれば道路計画を廃止するのが当然、ウ 時のアセスに関する最近の動向からも、道路計画を廃止するのが当然との観点から、「新規開削部分の道路計画を廃止すべき」との意見を提出した。
また、北海道自然保護連合からは「自然環境の回復と保全が最重要課題となる21世紀を目前にして、士幌高原道路の開発は馴染まない。また、正しい時代認識のもとに、また北海道自然環境保全指針にのっとり、士幌高原道路計画中止の英断を」、との意見が出された。
士幌町開発と自然保護の会の意見は「一般道道士幌然別湖線の整備促進・開通に向けて事業主体である道が全力を傾注していただき、私達も整備促進・開通に向けて全力を尽くしていくことを誓う」というものである。
十勝自然保護協会(会長:野洲 健治)は「本計画の着手はやむを得ないものと考えるが、工事関係者にこれまで以上に繊細な配慮、開通後供用に伴う自然破壊にも備えた計画設計を行う事、地域の方々に地域の偉大な自然財産をこれからもしっかりと維持保全して頂くことを特に要請する」との意見を出した。
さらに、北海道十勝管内商工会連合会からは、「士幌然別湖線の早期完成は十勝1市19町村全体の悲願であり、本事業の推進について、地域重視を重点施策としている北海道の理解を重ねてお願いする」との意見が提出された。
(4)有識者の意見
本道路に関係する分野の11名の有識者にも、「本事業の今後のあり方、及びその理由」について意見を求めた。
その意見の概要は、
・政治的判断を避けるとすれば、当面の間(約3年程)事業の整備を凍結し、改めて検討する
・廃止が妥当を思われる
・現在の社会情勢下においては、事業を一時凍結することが適当と考える
・残された区間の早期着工を図り、地元農業者からも強い要望の出されている士幌高原道路の開通を求める
・中止ではなく、しばらくの間、凍結することが望ましい
・観光が本道において、今や本道経済に非常に大きく貢献していることを考え、本事業に適切に推進することを提言する
・広域的総合的領域からの検討と、長期的視野から良識ある政策をお願いしたい
・建設は中止すべき
・消極的反対
・結論を出す際に、最優先されるべきは「一般道民」でもなければ「地元自治体」「地元団体」ではなく、地元住民一人一人の個人の意見(場合によっては多数決)であるべき
・建設は中止すべき
というものであった。
6 代替性
(1)代替ルートの可能性
現在の全線トンネルルートは、検討を重ねてきた結果として、自然環境への影響を最小化できるものとして考えたものであり、さらに新たなルートを探ることは、困難である。
(2)既存道路ネットワークの整備
然別湖畔へ到達するため既存の道路としては、鹿追糠平線のみであることから、鹿追糠平線の整備に係わる課題などを以下に記す。
ア 国道274号~然別湖畔温泉間の道路構造から見た問題点・課題
・熊の沢~駒止湖畔の約6km区間は、線形不良、狭小幅員及び防災上のボトルネックである
・対応策として、現道活用・拡幅案、別線案等が考えられるが、いずれの案も地表面の改変が大きく、自然環境保全上の問題が大きく、事業を行うとしても、多大な費用が必要となる。
これらのことから、道路の改築を行うには、多くの課題を解決する必要があるものと考えられる。
イ 然別湖畔温泉~国道273号間の道路構造から見た問題点・課題
・線形不良及び狭小幅員により、積雪寒冷地における道路構造令に適合していない区間が全体の30%を占め、防災上及び交通安全上において、冬期通行止め解除を行うには抜本的な道路改良が必要である
・対応策として、現道拡幅案、平面線形不良区間のトンネル案等が考えられるが、現道周辺の地形改変が大きい、あるいは、トンネルの施工規模が大きいなどの問題がある
これらのことから、国立公園の規制区域内にある当該区間における道路の改築は、自然環境保全上の問題が大きく、また多くの費用を要することとなることから、通年供用を図るには、多くの課題を解決する必要があるものと考えられる。
(3)代替交通手段
この地域のような高原・山岳系の観光地においては、ロープウェイやケーブルカーが想定されるが、ケーブルカーは専用の軌道敷きが必要であり、全線にわたり地表の改変を必要とする。
ロープウェイの場合、駅部や約26本の支柱建設により地表改変が行われ、環境への影響は不可避となる。また、対象地域の観光入り込みは夏季集中型で、季節による需要変動が大きく、健全な事業運営上大きなネックとなることが予想される。
これらのことから、当該地域において、道路交通以外の交通手段を用いることは、困難である。
第3 施策が廃止になった場合の影響
1 地元自治体などへの影響
地元の士幌町、上士幌町、鹿追町や音更町では、道に対し様々な要請活動を続けてきている。また、農業、商工業など幅広い分野からも、この道路の早期完成に寄せられる要望は多く、各町の振興を図っていく上でも、本道路の果たす役割は大きなものがあると考えられる。
特に、士幌町では、士幌高原を「自然・環境教育のメッカづくり」の拠点として整備を図りながら、「自然と共生する農村づくり」を進めようとしており、この道路に大きな期待が寄せられている。
このようななかで、士幌然別湖線の整備を廃止した場合、地元各町の地域振興計画や総合計画などの前提が崩れることともなり、これまでに進めてきた「まちづくり」に大きな影響を与えることが考えられる。
代替ルートや代替交通手段により、本事業を代替することは難しいことから、士幌然別湖線が果たす役割を代替できるような、交通以外の分野における施策を検討する必要がある。
2 関係する他の施策への影響
ア 環境庁(国立公園計画)
大雪山国立公園の公園計画の利用施設計画に位置づけられたもののうち、一部の車道がその事業の廃止を決めたことによる、公園計画の変更などについては、環境庁との調整が必要となる。
イ 「ゲート」~第2駐車場間の取扱い
現在、士幌然別湖線は、士幌町方面からヌプカの里を越えてゲートまで完成しており、それに続く公園附帯施設である第2駐車場までの区間についても、これまでに路盤工、排水工などが既に施工されている。
未開削区間の事業が廃止となったとしても、道路の利用面、また地域振興の面からも、第2駐車場までの区間及び第2駐車場については、完成させる必要がある。
3 その他
士幌然別湖線の整備は、昭和45年度から平成8年度まで、国庫補助事業として行われており、約15億円の国費が投下されていることから、今後、国の担当部局とその取り扱いについて協議を行う必要がある。
第4 施策を推進することにした場合に必要となる手立て
1 事業再開への対応
国庫補助事業として行う場合には、建設省と協議を行っていく必要がある。
2 自然環境保全審議会の留意事項への対応
士幌然別湖線の整備にあたっては、環境庁から大雪山国立公園の公園事業として決定される必要がある。このため、今後とも必要な調査を行い、自然環境保全審議会からの留意事項への対応を進めていく必要がある。
さらに、公園事業の執行にあたっては、環境庁からの承認を要することとなる。
3 公判への対応
士幌然別湖線の整備については係争中であることから、適切に対応していく必要がある。
4 その他
士幌然別湖線の整備は、規模要件から、北海道環境影響評価条例の対象事業とはならない。
第5 検討結果を踏まえた所管部としての考え方
道路整備の検討については、道路計画的な面から、また緊急時における代替性の確保の面から道路ネットワークの形成を図るという観点が必要であり、道路管理者の責務として安全で快適な交通の確保を図ることは極めて大切なことである。
また、道道士幌然別湖線の整備については、長年にわたり、この事業に携わってきた数多くの方々や本事業の推進活動に携わってきた地元の方々の熱意を十分に尊重するとともに、その責任の重さを十分認識しなければならない。
平成9年7月以来、士幌然別湖線の整備について必要性、妥当性、優先性、効果、住民意識、代替性などについて検討を重ねてきた。
その結果、
1 道民意識調査によれば、自然環境への配慮を十分に行い、地域の活性化に寄与する経済効果のある公共事業の実施が求められている。
2 本道路計画の必要性、妥当性はあると判断する。
3 建設に必要な費用に対する効果については、間接効果も含めると投資額以上となることが期待できるものの、直接的な事業効果は、大きいものとはいえない。
4 全線トンネルルート案は、国の自然環境保全審議会の審議を経て、公園計画上の車道として認められたものであるが、地形、地質について慎重に調査検討を行うことなど3点の留意事項が附されており、引き続き調査検討が必要である。
5 現在、然別湖畔にアクセスする唯一の道路である主要道道鹿追糠平線の湖畔より南側は、駒止湖付近に約1kmにわたる狭隘な未改良区間を抱えているが、周辺の貴重な自然を守りながら、これを解消するには、多くの課題を解決する必要があり、そのための調査の結果を踏まえて、士幌然別湖線の整備の緊急性、優先性を評価する必要がある。
以上の点を総合的に考察し、建設部としては、本道路の未開削区間の工事着工は、現時点では、難しいと判断する。