再評価調書(道道士幌然別湖線の整備)

平成11年3月17日

1.対象施策の概要

(1)施策の目的・内容(背景・契機)

 山火事対策、木材の運搬用道路、士幌高原道路より然別湖へ直結するレクリェーション道路、経済活性化対策などを目的として、昭和38年に士幌町が町道として整備することを決定し、昭和44年までに、士幌然別間道路として国庫補助事業により施工した。(開削延長約2,400m)

 その後、昭和44年6月に、道が「士幌町から主要な観光地(然別湖畔)に連絡する道路」として、道道士幌然別湖線として認定し、昭和45年から47年まで、国庫補助事業として施工した。(開削延長約440m)

 【延長:21.6km(国立公園内 6.4km)、うち未開削区間:2.6km】

 

(2)経過(事業実績)

昭和38年     士幌町が町道として整備することを決定。

昭和40年10月  大雪山国立公園の公園事業計画決定。本道路は公園利用のための車道として決定。

昭和41~44年  士幌町は、町道士幌然別間道路として、国庫補助事業により施工(開削延長約2,400m)。

昭和44年6月  北海道が道道士幌然別湖線として認定。

昭和45~47年  道は国庫補助事業により施工(開削延長約440m)。

昭和48年     新規開削を一時中止。(既開削区間の法面保護及び緑化工事を進めることとした。)

昭和54年2月  道は周辺地域の自然環境調査を開始。

昭和57年3月  「自然環境調査報告書」の取りまとめ。当初ルートを駒止トンネル案に変更。

昭和63年9月  北海道環境影響評価条例の趣旨に沿った手続きの終了。

平成6年12月  「全線トンネルルート」を選定の上、公表。

平成7年5月  国の自然環境保全審議会答申で、トンネル計画が適当と認められる。(3点の留意事項が付される。)

平成7年8月  計画ルートが、大雪山国立公園の公園計画で位置付けられる。

 

(3)停滞要因及び将来の見通し(問題点)

 昭和47年前後に団体等から新たな道路開削への反対運動が起こり、道は昭和48年度以降、新規開削を中止し、既開削区間の法面保護工事及び緑化工事を進めることとした。

 「駒止トンネルルート案」についての北海道環境影響評価条例の趣旨に沿った手続きを終了した昭和63年以降も、早期完成に向けての強い要望がある中で、計画の中止等を求める声が上がるなど様々な議論が起こり、道路整備の中止を求める訴訟も提起された。

 「全線トンネルルート案」公表後の平成6年から7年にかけて、大雪山国立公園の適切な保護及び利用を図るため公園区域や計画の再検討が行われたが、自然環境保全審議会から環境庁長官への答申の際に、士幌然別湖線道路計画の変更に当たり、次の3点の留意事項が付された。

ア トンネルルートの地形、地質については、未解明な点も残されているので、それらの点に関し、専門家の意見も踏まえ、慎重に調査検討を行うこと。

イ トンネル工事に伴う周辺環境への影響及び排ガスが動植物に及ぼす影響等供用後の自然環境への影響について、事前に十分検討を行い、必要な対策を講ずること。

ウ 然別湖畔地区については、山岳と湖沼と亜高山植生による優れた自然環境を構成しており、適正な保護のもとに、その特性を踏まえた自然とのふれあいの場として活用していく必要がある。かかる観点から、既存道路を含む利用施設の整備には慎重な配慮を払うとともに、適正な利用に努めること。

 また、近年、公共事業のあり方について全国的に様々な議論が生じるとともに、環境保全に対する住民意識が変化する中で、道においても、「時のアセスメント」制度の導入や、北海道環境基本条例・北海道環境基本計画の策定など、事業の見直しや環境保全について積極的な取り組みを行っている。

 このような中で、本道路については、昭和48年以来、新規開削工事が中断したままの状態が続いており、この間、道としても環境影響調査や公園計画の変更など事業の進捗に努めてきたが、依然として工事着手は難しい状況にある。

 

2.検討の基本的視点

 本道路については、昭和48年以来、新規開削工事が中断していることから、その間の社会経済情勢の変化に伴う自然環境や公共事業のあり方等に対する住民意識の変化を考慮するとともに、道路事業により得られる様々な効果や、地域の発展に果たす役割を分析・検討し、事業の必要性、妥当性、効果などを総合的に検討した。

 

3.道としての対応方針

 先に提出された所管部局の「検討評価調書」を踏まえながら、「検討チーム」として、総合的に再評価を行い、道としては次のような方針で対応することとする。

(1)事業の取扱い

 当初の計画によれば、本道路の完成により、ア 災害発生時等の短縮・代替ルートの確保による民生の安定、イ 然別湖畔の住民等の生活交流圏の拡大、ウ 士幌町等、地元町の地域振興対策の支援、エ 大雪山国立公園の利用拠点と地元町の観光拠点との効率的な連絡、オ 東大雪地域・道東地域における広域観光ルートの形成、が期待されている。

 地元3町をはじめとして、地域振興を図る上で、本道路の整備に対する強い期待がある一方で、国立公園内を通過する道路整備に対し、自然保護団体を中心として、貴重な自然生態系への影響を懸念し、強い反対運動が行われている。

 この地域は、国立公園の第1種特別地域であり、北海道自然環境保全指針においても、「すぐれた自然地域」として位置付けられ、厳正な保全を図るなどの方向が示されており、近年における道民の環境保全に対する意識の高まりを踏まえると、道路整備の推進に当たっては、より慎重な姿勢が求められる。

 交通解析調査によれば、道路完成により、交通量は年平均で 600~700台/日と見込まれ、経済効果としては、貨幣化が可能な間接効果は40年間で約44億円、直接効果による費用便益比は、0.54と低い結果となった。

 また、道路整備により、士幌町と然別湖畔を結ぶ代替道路や短絡道路としての時間短縮は見込めるものの、国道274号と道道鹿追糠平線を利用するルートが既に確保されており、東大雪地域・道東地域における広域観光ルートの形成の面から見ると、その効果は大きなものとは言えない。

 道民意識調査によると、公共事業の実施に当たっては、地域活性化に寄与する経済効果を求めるとともに、自然環境に与える影響を重視する傾向が見られる。

 また、道路完成による具体的な効果について、地元3町においては、安心感や交流機会の増大に対する期待は高いものの、観光客や売り上げの増加に対する期待はさほど高くない。

 有識者の意見は、地元要望を重視した視点から、推進すべきとする意見がある一方、環境保全や事業効果の観点から、凍結や中止を求める意見も多く見られた。

 道としては、以上の点を総合的に判断し、本道路の未開削区間の工事は、取り止めることとする。

 

(2)今後の取組み

 地元3町の進める地域振興については、今後必要な協力を行っていく。

 なお、士幌町が目指す「自然・環境教育のメッカ」づくりは、自然環境を最大限保全し、地域の自然や産業を生かした体験・交流型の地域づくりとして、環境の時代といわれる21世紀における本道の地域づくりのモデルとなるものであり、道としては、こうした地域の取り組みについて、庁内にプロジェクトチームを設置するなどし、積極的に支援していくこととする。

 安全で円滑な道路交通の確保を図る観点から、道路管理者として、道道鹿追糠平線の安全度向上のための対策を積極的に進めていくこととする。

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