北の総合診療医 - その先の、地域医療へ - 松田伊織医師インタビュー

深川市立病院
内科 専攻医 松田 伊織 ( まつだ いおり ) 医師プロフィール

松田医師

出身

北海道稚内市

略歴

  • 2022年 旭川医科大学医学部を卒業
  • 2022年 旭川医科大学病院 初期研修医
  • 2024年 深川市立病院 総合診療専攻医

趣味

読書

座右の銘・ モットー

思考を止めるな

道北出身で子どもの頃から過疎地域での医療アクセスの難しさを肌で感じていた松田先生。
医大に進み、自らが「地方と都市部の橋渡し」役となれるよう総合診療医の道を選びました。

専攻医として日々行う診療の中では、教科書通りにいかず壁にぶつかることもありますが、「目の前の患者さんを通して経験を重ねることが必要」と感じています。

病棟では終末期の患者さんを担当することも多く、「最期まで目を背けずに一緒にゴールすること」を大切にする松田先生。
「誰もが住み慣れた地域で暮らし続ける」、その一助になりたいと目標を語ります。

総合診療医を目指したきっかけ

生まれは稚内市です。3歳まで過ごし、それから利尻島や豊富町で育ちました。
同級生には酪農家も多く、家の仕事の手伝いが大変という子もいましたが、私自身は両親をはじめ周囲の支えもあって、何不自由なく勉強させてもらえました。将来は私のできることで恩返ししたい、過疎地域で働いて人の役に立ちたいと考え、医師を志しました。

北海道の過疎地域は、面積の広さ、積雪、公共交通機関が少ないといった理由から都市部の医療機関への通院が困難な環境にあります。
利尻島に住んでいたときには、大きなケガをしても天気が悪ければヘリコプターが飛ばず、適切な医療を受けられないといった話を聞いたこともありました。

地域でできる治療はその地域で完結させ、専門的な治療が必要な場合だけ適切な専門施設につなぐ医師が地域にいれば、過疎地域でも不安なく暮らすことができます。学生時代に総合診療医の存在を知り、私が目指す医師像はこれだと確信しました。

松田医師

日常診療での学び

現在は病棟と週1回外来を担当しています。
当地域は高齢化が著しく、病棟では終末期の患者さんも多くいらっしゃいます。もうこの方にはどんな医療を施しても良い未来が描けないという場合もあります。
ガイドライン通りの治療法を選択するべきか、それとも患者さんにとって少しでも苦しまない方法を選択するべきか。ご家族の思いや、患者さんが人生のどのあたりのステージにあるのかも考え合わせながら、どういった介入が患者さんにとって一番適切なのかを検討します。
教科書に正解が書かれているわけではない、死を想定して動くことの難しさを、この期間で学んでいます。

どんな患者さんも最期まで目を背けない。そう、心に決めています。長距離ランナーに並走して走る自転車のように、ゴールテープを切る瞬間まで伴走し続ける。毎日の回診のときに聴診器を当てたり、聞こえているかどうかわからなくても声かけたり。どんな状態にあっても、患者さんへの敬意を忘れないよう心がけています。

難しさを感じる瞬間

患者さんと反りが合わず、外来の担当を外されたこともありました。
その患者さんは当院よりもっと大きな病院で専門的な治療を受けるべき状態でしたが、患者さんは「薬だけ出してくれたらいい」と言うばかり。医師としての判断を優先して専門医への通院を強く提案したら、患者さんは怒り出してしまい、別の先生に交代することになりました。

患者さんによって価値観はさまざまです。患者さんにとっての優先順位は何か。それをもう少し掘り下げられたら、いざこざにならずに済んだのかなという反省があります。患者さんに適切な治療を受けてほしいという思いが先走りすぎて通院が途絶えてしまっては、その可能性もなくなってしまいます。

通院を継続しながら粘り強く患者さんの考え方を聴取し、その上でこちらの話を聞いてもらえるよう信頼関係を構築する。それから、今どういう状態にあるのか、どうしてこの治療が必要なのかを説明し、お互いが納得できる道を模索する。この繰り返しなんですね。

初期研修医時代に指導医の先生から「目の前の患者さんから学びなさい」といわれました。その姿勢を忘れることなく、毎日の診療を通して成長できればと思います。

深川市

目指す総合診療医の姿

まだまだ未熟なのでまずは大きな病院で病院総合診療医として勉強させていただいた上で、いずれは過疎地域の診療所などに勤務し、「地方と都市部の橋渡し」役になれるような医師になりたいと考えています。
「過疎地域に暮らしていたから助からなかった」「田舎だから適切な治療を受けられなかった」、そういう患者さんを北海道からなくしたい。どんな場所に住んでいても、その方たちがあたりまえに医療を受けられるような環境になってほしい。一人の医師として、その環境づくりの一助になれたらと願っています。

北海道の医療をより良くしていくためには、たくさんの人々の助けが必要です。
特に総合診療医は、北海道こそ必要であると現場を通して痛感します。
これを読んでくださった皆さんが総合診療医になり、力を貸していただけたなら幸いです。

深川市立病院

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