北の総合診療医 - その先の、地域医療へ - 青木 惇 医師インタビュー

深川市立病院
内科 医長 青木 惇 ( あおき じゅん ) 医師プロフィール

青木医師

出身

北海道札幌市

略歴

  • 2016年 旭川医科大学医学部を卒業
  • 2016年 深川市立病院 初期研修医
  • 2017年 旭川医科大学病院 初期研修医
  • 2018年 深川市立病院 総合診療専攻医
  • 2020年 清水赤十字病院 総合診療専攻医
  • 2020年10月 深川市立病院

資格

  • 日本専門医機構総合診療専門医
  • 総合診療専門研修 特任指導医
  • 日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・認定指導医
  • 日本消化器内視鏡学会上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 旭川医科大学臨床指導講師

趣味

釣り、キャンプ

座右の銘・ モットー

否定の中に肯定をみる

医療ドラマの主人公に憧れ、地域に寄り添った医師になりたいと医療の世界に飛び込んだ青木先生。
医師9年目。診療や院外での活動を通じて、総合診療医としてのやりがいと責任の大きさを日々実感しているそう。

生き方と同時に逝き方も問われる現代。超高齢社会の地域医療における最大の課題は「本人が望む医療」を提供できるかどうかであるといいます。その実現に向けて、医師はもとより多職種との連携強化を図りながら、在宅看取りの仕組みづくりにも取り組んでいます。

北空知圏域の医療・介護・保健・福祉の現在

北空知は深川市、沼田町、北竜町、秩父別町、妹背牛町の1市4町からなる地域で、人口は約29,000人です。道内の他地域同様に人口減少・少子高齢化が問題となっていますが、特に北空知においては高齢化率が40%を超え、全国トップレベルとなっています。

外来・病棟ともに80代・90代の患者さんが多く、一人で複数の疾患を抱えているのみならず、高齢独居や老老介護といった社会的な問題など、複雑に絡み合った状態で受診されるケースが多々あります。そうなると単に病気を治して退院させることのみがゴールではなく、退院後も安心安全に暮らせるよう支援を行ったり、福祉サービスを整えるなど、包括的な医療が求められます。問題を紐解くためには全人的な対応が必要不可欠で、北空知圏域の現状はこれからわが国が迎える超高齢社会の縮図といえます。

青木医師

総合診療医を目指した理由

少し恥ずかしいのですが、高校時代にドラマ『Dr.コトー診療所』を観て、地域に寄り添って生きる医師に憧れました。ただ、高校卒業後は教育大に進み、小学校の教員免許を取得します。ですが、やっぱり医療の道を諦めきれず、旭川医科大学に入り直しました。

町医者を志して入学したものの、医学生時代にさまざまな診療科の実習を受けるうちに専門を持つことが輝いて見え、揺れ動いた時期もありました。正直なところ、いったんは外科に傾きかけたのですが、町医者になりたくて医学部に入ったことを思い出し、初期研修の最後の段階で総合診療専門医を目指すことを決心しました。

総合診療医の役割とやりがい

地域や施設によって総合診療医の働き方は異なりますが、老若男女を問わず「地域の健康を守る盾」となることが、地方の総合診療医の役割だと思っています。

臓器別診療科が充足している地方病院はわずかなため、総合診療医はあらゆる健康問題に対処しなければなりません。幅広い知識と技術が求められ、必要と判断すれば高次医療機関へつなぐことも大事な役割です。
時として臓器横断的な診療を得意とする総合診療医が、大病院で診断がつかなかった病気を見つけ、治療することもあります。駆け込み寺のように、総合診療医には日々多様な問題への対応が求められます。

初期研修医として最初に深川市立病院に赴任してから10年近くが経とうとしています。
ずっと診ていたおじいちゃんが亡くなったり、そのお孫さんが結婚してお母さんになったり。ライフイベントに合わせて、こういった医療が合っているんじゃないかとか、生活の場をご自宅から施設に移してみてはどうかと提案することもあります。
ただ病気を見つけて治すだけではなく、地域に住まう人たちとともに生きながら、自らの人生をかけて、地域の健康問題や人々の暮らしに向き合っているという実感があります。

深川市立病院

地域の中での活動

深川市立病院は北空知圏域において唯一救急対応が可能な中核病院であるため、地域の救急患者が昼夜問わず当院に搬送されます。急性期患者が集まる一方で、旭川市などの高次医療機関から退院調整やリハビリ目的での転院も受け入れており、高次医療機関、診療所、高齢者施設との連携のハブとなっています。総合病院としては珍しく訪問診療も行っています。

診療以外では、地域の看護師さんを育てるために看護学校で講義を担当したり、市民向け健康講座で講義を行ったりと、地域の健康増進に働きかけを行っています。

救急外来から病棟、外来、在宅まで。その仕事量と責務は大きなものですが、当院は地域にとって円滑な医療を提供できる医療機関であると思っています。

とはいえ、医師一人でできることには限界があります。私が取り組んでいることの一つは、仲間を増やし、協働することで、患者さんや地域、そして病院のニーズに応えることです。
具体的には、多職種との連携強化に取り組み、在宅看取りの仕組みづくりを行いました。

これまで「自分の家で最期を迎えたい」という希望がありながら、地域内で看取りのためのチーム体制が十分に整備されておらず、例えば自宅で亡くなってもわざわざ病院に来て死亡診断するというケースが多々ありました。
亡くなってから病院に来るのはナンセンスだということで、医師が自宅へおじゃましてお看取りできるよう、院内外の訪問看護師や救急隊といった関係者と話し合って看取りチームの体制整備を行ったり、患者さんとご家族が在宅看取りの意思を示せるよう、書類の作成やパンフレットの配布を行って周知を図りました。
地域の仲間との協働により、在宅看取りの認知も少しずつ広まり、現在、在宅看取りの件数は着実に増えています。
在宅でお看取りした後、ご家族から「おばあちゃんの望み通り、最期は深川に戻ってこられた」「先生に会えて良かった」といった言葉をいただくこともあります。ご家族の思いに応えられたのは、私一人の力ではなく、チーム全体の協力とサポートがあってこそ。こうした経験を通して、在宅看取りの重要性とその意義を再確認することができました。

医学生や若手医師へのメッセージ

総合診療科は単に身体的問題だけではなく、その患者さんを取り巻く心理社会的背景まで目を向け、治療し、ともに歩んでいく診療科です。
この臨床経験は将来どの診療科を選択するにしても大きな財産になるので、ぜひ研修先として深川市立病院を候補に入れてもらえたらと思います。
診療科がそろった大病院とは異なり、診療科の枠を超えて縦横無尽に医療を実践する総合診療医の姿を目の当たりにすることができるでしょう。

大きな病院や大学病院で働く専門医の姿は輝いて見えると思います。実際、私もそうだったから。でも、それだけじゃなく、こうして地域に住む人たちとともに生きていく医療があるということを、ぜひ見て、体験して、その魅力を感じていただけたらと思います。
私たちと一緒に、地域を愛し、地域から愛される医師を目指しませんか。

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