寿都町立寿都診療所
2019.03.29 記事
- プロフィール
- 北海道北見市 出身
2015年3月 自治医科大学を卒業後、北海道家庭医療学センターに在籍。
2017年3月 江別市立病院での2年間の初期研修を修了後、
専攻医の1年目は帯広協会病院に勤務。
2018年4月から専攻医2年目として、寿都診療所に在職中。
地域に貢献できる力が備わっていることを実感しています
寿都診療所での1年間の研修まっただ中の杉原医師
心に刻み込んだ地域医療に大切なこと
自治医科大学に在学中の地域実習で、地域医療の大切さを実感したという杉原先生。初期研修を終えたのち、北海道家庭医療学センターの総合診療/家庭医療専門医コースを選択しました。専攻医の2年目として、1年間の日程で寿都診療所に勤務しています。
地域医療を奥深く学び、経験を積み重ねていく日々。「総合診療は答えがないだけに難しい。その複雑さにすごく面白さがある」と語る言葉から、総合診療医としての自分を追い求めていく意欲が伝わってきました。地方のまち寿都での研修で、杉原先生はどのようなことを学び得たのでしょうか。
北海道の地域医療の実情を知り、総合診療医の道へ
中学・高校時代に、北海道内で地域医療医が足りないことを、新聞などを通じて知ったという杉原先生。総合診療医への道へと誘ったのは高校1年のときでした。
「親しい先輩が志望していた自治医大の説明会に誘われて参加したことを機に、「こういう医療、こういう医師だったらなってみたいな」と思ったことが、総合診療医を目指した最初のきっかけです」。
その後、杉原先生は自治医科大学に進学。毎年夏に道内各地のへき地で行われる実習を通じ、実際に自治医大の先輩方が活躍している姿を見て、「地域医療は大事だな」と実感しながら、勉強を進めていったそうです。
「卒業後の初期研修でも、地域や患者さんの多面的なニーズなどを臨床の場で直接感じることが多くなって、総合診療を専門医として選ぶことを決意し、北海道家庭医療学センターに入りました」。
ここでの経験で「かなり鍛えられた」感覚とさらなる意欲に
家庭医療学センターでは、専攻医で4年間の研修プログラムが組まれており、2年目の杉原先生は、寿都に来てもうすぐ1年が経とうとしています。
寿都町にはもともと道立病院があったため、よくある病気の入院まで含めた「診療所でありながら、病院のイメージに近い機能が求められています」。小児科から整形外科、外科的な処置を含め、様々なことへの対応が必要で「かなり鍛えられた感覚」があるといいます。
「地域包括ケアは高齢者を中心としたケアだけではなく、実際はもっと幅広くて、子供の健康増進だったり身体についての知識の教育など、国が推進している包括ケア以上のもの…すべての地域住民の健康、プライマリヘルスケアを根底から支えるというような感覚を感じることができる」と、ここでの経験がさらなる意欲につながっているようです。
杉原先生は、都市部で研修している同期の先生から「寿都はタフな力が要るよね」と言われていますと紹介してくれました。
寿都で研修して気付いたこと
寿都診療所で研修をはじめる前は、総合診療への向き合い方も違っていたようです。
「もともと想像していたのは、求められるものに対して、自分の人間性や持っている才能のような部分で勝負していくものかなと思っていました」。
しかし、実際はそれだけでは決してないことに気付いたそうです。
「現在学んでいる、『何でも対応する』という包括的、総合的な医療には、定義があり、理論があります。医療ニーズへ柔軟に応え、幅広く診ていく“型”などを系統立ててきちんと学び、その“型”を踏まえて実践することで、より自分らしさが積み上がっていく生涯教育としてのやりがいもあります」と、実際に研修をして良かったポイントを話してくれました。
さらに、現在の総合診療では、地域のニーズへの応え方などに対する系統的な焦点が確立されてきて、専門医として形になっている。「そういう事を学ぶことによって、もっとストレスなく、より多くの人がやりがいと楽しさをもって総合診療を実践できるようになるのでは」といい、「総合診療の教育をひろめていくことに魅力がある」と話しています。
患者さんとの距離が近いだけに難しさも
寿都診療所は患者さんが悩み事を相談しやすい環境づくりを心がけているといいます。こうした地域の人々との距離感の近さは、訪問診療で患者さんを訪ねた時に、遠方へ買い物に行く時間をやりくりするのが大変とか、漁についてとか、様々な日常生活上の悩みを聞くことにもつながり、患者さんの医療以外の状況も踏まえた柔軟な対応が日々求められるそうです。
「家庭の問題は正解がはっきりしないだけあって難しいです」と杉原先生。「でも、何が問題か多職種と相談しながら情報や悩みを探り、最終的に家族と関わった医療従事者全員が納得できるようなゴールに至れたときには、家庭医として頑張って良かった、と心から感じます」。その難しさや複雑さもやりがいにつながっているようです。
介護・福祉、行政との垣根のない連携
特に高齢者が多い寿都町。杉原先生は、介護・福祉や行政との多職種連携の大切さを実感しています。都市部と異なり「患者さんを支えていくために、医療と介護の垣根のない連携が必要」と、地方における連携の特徴として“垣根がないこと”を挙げ、具体的な例を紹介してくれました。
「例えば、寿都診療所では入院されている患者さんや、外来の患者さんのカンファレンスを行うときに、すぐに保健師さんに相談できる環境が整っています。入院して体力が落ちた患者さんが退院して帰るときに、『このままのおひとり暮らしは難しいから退院前にご自宅の状況を伺って、デイサービスやヘルパーなどの介護サービスを使ったらよいのでは』などとリアルタイムで実際的な相談を行い、その都度各々がその人のためにできることを一生懸命考えてくれます」。
職種の枠を超えた連携を深めていく事の大切さ。そして「医療だけではなく介護にも精通していかなければ」と杉原先生は話しています。
「緊密にコミュニケーションをとって情報交換することで、患者さんに対してより良いケアができるようになるかなと思っています」。
総合診療はひとりの患者さんの専門家
難しさや複雑さに面白さがある
これから総合診療医を目指す後輩たちへ、杉原先生から次のようなメッセージをいただきました。
総合診療医は「ひとりの患者さん自身の専門家として関わる、『人』の専門家」、「あなたの専門医です」と表現されるといいます。それだけに、ひとりの患者さんを診るにあたって多くの要素が求められ、
「1人の患者さんが何か困って来たときに、1つの疾患でくり抜いたり、よくある疾患として対応するならばそのひとは数ある患者さんの1人にしか見えないかもしれません。でも、その人に実際に起こっていることはとても複雑です。高齢者であれば、もともと患っている疾患だけでも10個や20個重なっていることもあります。さらに社会や福祉、家族、経済、いろいろな問題が背景に横たわっていて、とても複雑。深く知れば知るほどどれも通り一遍、一筋縄ではいきませんし、同じケースにはまったく出会わないのです」。
杉原先生は、こうした複雑なところに面白みを感じられる職業であり、患者さんと一番近いところで問題解決していくことでのやりがいをとても感じやすいといいます。
さらに、「自分のやりがいを求めていたり、患者さんの困りごとそのものを解決したり寄り添ってあげたいと思っている若手の人たちにとっては、総合診療科というフィールドは面白いんじゃないかと思います。総合診療科の『専門性』はニーズに応えることそのものです。この『専門性』はどこにいても、例えば自分や家族のライフサイクルに合わせて生涯を通して活かし続けることができますから」と話してくださいました。
杉原先生が思い描く将来
総合診療医への道を着実に歩んでいる杉原先生に、興味があることについて聞いてみました。
「例えばいま興味がある分野は『整形内科』という新しい考え方です。例えば多くの人が経験する腰痛などの痛みのように、手術には至らないけれどもつらい症状というのは身近にあります。一見、その治療法は痛み止めや外用薬など、あまり深く考えずに対応しがちなのですが、現在こうした痛みに対して、エコーを使って系統だって診断し治療を行うなど、新しく実用的なアプローチを深め、発信している医師たちがいて、それに興味があります」。
将来の目標については、どのように考えているのでしょうか。
「学生や研修医や専攻医への教育にとても興味があるので、将来的には地域医療を実践しながら、その楽しさを教育で広めるいう両輪で、やりがいを感じ続けられるような働き方ができたらなと思っています」。
「もうひとつ将来的には、地域コミュニティケア、プライマリヘルスケアの分野に関わり、医学の知識を持ち地域に貢献したいと考えるひとりの人間として、行政の方と連携し、『これをもっと良くしたら面白く回るんじゃないか』という発言やアドバイスができたり、実際に施策に関わっていくようなことができたらなと思っています」。
今後、医師として十分なキャリアを積んだあとに、どこか道内の地域で腰を据えてやっていけたら面白いのかなと思っていますと話してくれました。