寿都町立寿都診療所
2019.03.29 記事
寿都町内で唯一の理学療法士である渡部さん。2年前、札幌の老人保健施設に勤務していた時、募集していることを知り寿都診療所のリハスタッフに。それまで医師との関わりがあまり多くなかったため、総合診療医については全く知らなかったそうです。ところが寿都診療所に来てから、「リハビリテーションの考え方と総合診療医の考え方は、結構近いものが多い」と驚きを感じたそうです。
リハスタッフとしてチーム医療に加わる渡部さんに、子供からお年寄りまで想像以上に広く診ている総合診療医の姿と、日々の仕事を通じて感じていることについてお聞きしました。
患者さんの背景にあるものや思いに注目し大事にするという共通点
理学療法士は、体の動きや機能だけを診るのではなくて、「患者さんがどうやって生活をしているのか」というところを大事にしますと話す渡部さん。寿都診療所に着任後、総合診療医が、同じように患者さんの背景にあるものや思いに注目し大事にしている、時間的にも患者さんに長く関わって幅広く診るというところに、理学療法士と考え方が一致する部分を感じたそうです。
「こういうところを専門に診ている医師がいるんだなあ」と驚きがあったようです。
多職種との信頼関係を大切にするための距離感の近さ
それだけに、総合診療医は患者さんを地域で診ていくときに必要な、多職種との信頼関係を大切にしていることを感じたそうです。
「先生方は、お互いできるところできないところを分かった上で、『じゃあ、こっちはあなただね』と。その場合も、職種の表面的な役割だけじゃなくて、いろいろ知った上での役割分担をしていく。私たちのような理学療法士とかだけじゃなくて、福祉関係の人とか行政の人とかも含めて」。
もちろん周りの職種からも、事例に応じて医師が必要としている情報が出しやすい「関係性の近さ、距離感の近さ」があるからこそやり取りしやすく、これが信頼関係に結びついているようです。
総合診療医との協働で、より良い理学療法を提供
日々の仕事についてお聞きすると、「少し言い過ぎかもしれませんが、先生方は町民全員といっていいくらい幅広く診ています。その中でリハビリが必要な人を診断し、私のところに来る流れです」。
患者さんの多くは、関節などに痛みがある高齢者の方や、かなりご高齢で体力が落ち、日常生活のお手伝いが必要になる方が、これ以上悪くならないように理学療法を行っているそうです。
「先生方はどういう役割を私が担っていて、どんなことを得意としているか分かった上でつないでくれている」。
これは渡部さんにとって大きな信頼感につながっています。
また、リハビリを担当する中で「先生方は、患者さんのキャラクターも含めて経過を長く診ているので、私と患者さんの関わりの中でなかなか改善しない部分、患者さんご本人が納得できない部分などに関して、総合診療医の視点からアドバイスをもらったりします。それは、ただ単に関節や血圧を診ているだけの医師にはない、患者さんの性格を知った上での情報がもらえるところがあります」。
当たり前にやれていることが普通になってしまう、
総合診療医との協働
渡部さんは、「お互いがどういうことを必要としているのか、ある程度の共通理解があるくらいに、先生方との間でいい情報のやり取りができている」ことを挙げ、周りの職種の特徴をわかった上でコミュニケーションができるということが、総合診療医の強みなのかなと感じているようです。
さらに、「田舎で活躍している医師は関わる人が幅広く、たくさんの職種の方から様々な情報を得ている。その情報を自分の中でかみ砕いて、必要な人にバトンタッチすることがちゃんとできるような能力が優れています。そういうことがきっと必要で、そこを専門としてやっているのではと思います」。
こうした総合診療医との仕事を通じて、「一緒に仕事していて気持ちいい、やりやすいとすごく思います」と話す渡部さん。今まで他の医師と仕事する機会が少なかったこともあり、「これが当たり前な感じだけど、たぶんそんなに当たり前じゃないんだろうなっていう感じもするんですよね。当たり前にやれていることが普通になっちゃうので」。
町民にとっての安心感はまちに医療機関があること
「若い方だと専門医を好む傾向があるような話も聞きますが、そうでない方もいます」。
人口3,000人ほどの寿都町。高齢になって病気をたくさん抱えて入院などが頻繁に必要になったり、あるいは訪問診療が必要となったときには、寿都診療所が利用されていると説明してくれました。「町民にとってきっと、ある程度の安心感はあるんじゃないかと思います」と渡部さん。
「この土地に長く住み、年老いて支援が必要になったときに、人としての距離感はもちろん、いろいろな病気に対応してくれたり、うまく専門の人にバトンタッチしてくれる医療機関が町にある。それが町民にとっての“安心感”につながっているのでは」と話します。
診療所が地域に果たしている役割について、3,000人の住民と同じ立場で“地域づくり”に参加している。“3,000の1”で頑張っているというイメージですね」と語ってくれました。
広く診ていく大切さを学ぶには最適なフィールド
総合診療医と協働する中で、渡部さんは自分の中で大きく変化したことがあるといいます。
「もともと老人保健施設に勤めていたので、医療機関で勤めている人よりもきっと、様々な病気や障害を持つ患者さんとの関わりは広かったと思うんです」。
渡部さんは、札幌で幅広く診て培った力を地方で発揮して、さらに広いものを見たいという思いがあったそうです。しかし寿都に来て目にしたのは、子供から大人、高齢者まで幅広く診ている総合診療医や、役場の保健師さんの姿。
「広いものを見たくて寿都に来たら、もっと広いものを見てしまったんです。カルチャーショックといいましょうか。自分は思っていたよりも全然狭いんだなっていう部分を改めて知りましたね」。
寿都診療所に勤務してから2年。渡部さんは、地方だからこそ見えてくるモノに出会い、視野を広げることができたと語ります。
「札幌という都市部で建物の中だけで仕事をしていると、そこでしか見えていなかった部分があったと思うんですけど、寿都に来たら、もっともっと自分たちの見えないところで、いろんな人たちがいろんな働きかけをして地域が成り立っています。
この診療所には、狭いものの見方ではなく、広く診ることに感心ある学生さんが来て研修しています。
物事を広く見ていくようなことを学びたい人には、寿都診療所は良いフィールドですね」。