利尻島国保中央病院
2021.03.26 記事
- プロフィール
- 札幌市出身
自治医科大学を2013年に卒業。市立札幌病院で初期研修、2015年に砂川市立病院、2016年に士別市立病院、2018年に斗南病院での勤務を経て、2020年から現職 - 資格
- 日本内科学会 認定内科医
- 座右の銘・モットー
- 努める者は報われる
利尻島国保中央病院では、管理者以外の2人の医師は自治医科大学卒業医師の派遣を受けています。栃木県にある自治医科大学は1972年、へき地医療と地域医療の充実を目的に設立されました。各都道府県の定員枠(2人又は3人)を選抜する方法で入学試験が行われ、学生は全寮制で、地域医療に従事する総合医になる教育を受けます。卒業後は採用枠都道府県の定めで、公立病院を中心に9年間地域医療に従事します。卒後8年目で利尻島国保中央病院に赴任した診療部長の神崇志医師に、地域医療や総合診療の魅力を語ってもらいました。(インタビューは2021年1月、オンラインで行われました)
医師である前に、地域の一員
プライマリ・ケアに出会い、総合診療医を志す
神崇志医師は、医師になることを考えていた高校生のころ、当時浸透しはじめていた「プライマリ・ケア」という言葉に出会いました。「そういう場面で活躍する医師の記事を読み、地域住民とのやり取りにとても心温まるものがありました。総合診療医は、医療だけでなく、医療を通じて世の中のさまざまなものを見ることができると考え、総合診療への志を持ちました」。進学先には、地域医療充実の理念を持つ自治医科大学を選びました。卒業後は道内各地の基幹病院で働き、2020年に利尻に着任しました。
「大前提として、自分は医師である前に、島民の1人だと思っています」。高校生の頃に読んだ記事で、地域の医師には住民の1人としての活動もあることを知ったことが、総合医を目指した大きな理由だったといいます。赴任当初から漁民の手伝いなど、島民との触れ合いを大切にしてきました。「そこで医学的なお話をすると、病院に来てくれたり、内視鏡検査を受けたいと言ってくれたりします。少しずつ輪が広がっていくことを実感しました。これは都会では経験できない、地域医療の魅力です」。
住民の生きがいを知ることから総合診療は始まる
医療体制の限界を踏まえ、患者と共に苦労する
「地域における総合診療医とは、地域の特性を知り、地域の人たちがどういう生きがいを持っているかを知るところから始めなければなりません」と神医師は語ります。過疎化と少子高齢化が進む地域の高齢者に対し、「高齢者自身が終末期をどう考えているのか、認知症や難聴、地域に住んでいない家族の方々という視点も含めてケアをしていくことが大事だと思っています」。
利尻は、海に隔てられた離島という特殊性から、医療体制には限界があり、島民は苦労することがたくさんあります。神医師は「医師も島民と共に苦労を経験する」といいます。現在は、コロナ禍というさらに特殊な状況下です。患者さんがどうしても島内で治療を受けたいと望んだことから、装置や物品を取り寄せて特殊な治療を行ったことが何度もありました。「100%の自信がなくても、患者さんにメリットがあれば、今後もチャレンジして何とかしてあげたいと思っています」。
「医師になって数年で、地域の小さな病院で働く経験をする人は多くありません。とてもニッチな経験をさせてもらっていると思います。将来必ず一度は大都会の大きな病院で勤務することになると思いますが、島で得た経験、特に住民との触れ合いは、今後の臨床に活きてくると確信します。そうして大きな病院で得た経験を、その次は地域に還元できることを願っています」と力強く語ってくれました。
メッセージ
人口が少ない地域で総合診療医として働くには、その場所で楽しみを見つけながら過ごしてほしいと思います。地域は生活の場であり、自分もコミュニティーの一員です。コミュニティーを楽しめる地域で、数年単位又は数か月単位でもかまいませんが、長く活躍してもらえればと思います。
地域で総合診療を担う魅力は、住民との触れ合いも大きなものですが、その地域を大好きな人の生活のため、自分なりにできることをお手伝いして、その人の将来を一緒に考えていけることだと思います。若い医師たちには、たまには地域に出てきて、自分のできることをやってみるのも素晴らしい経験だと伝えたいです。