北の総合診療医 - その先の、地域医療へ - 平林高之医師インタビュー

砂川市立病院
病院事業管理者 平林 高之 ( ひらばやし たかゆき ) 医師プロフィール

砂川市立病院

出身

神奈川県

略歴

  • 1982年 北海道大学医学部を卒業
  • 1982年 北海道大学医学部附属病院循環器科
  • 1983年 砂川市立病院循環器内科
  • 1985年 北海道大学医学部附属病院循環器科
  • 1987年 砂川市立病院循環器内科
  • 2014年 砂川市立病院 院長
  • 2018年 砂川市立病院 病院事業管理者

資格

  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本循環器学会専門医
  • 日本専門医機構総合診療科特任指導医
  • 地域包括医療・ケア認定医

平林高之先生は、ご自身は循環器の専門医でありながら、総合診療が持つ可能性に熱い視線を注ぐ医師の一人です。

近年は北海道病院協会常務理事、北海道プライマリ・ケアネットワーク理事などを歴任し、地域医療の崩壊を阻止するための対策の一環として、総合診療医の育成、地域枠の拡大、医師派遣、地域医療連携などの施策に取り組んできました。

平林先生は、総合診療医を目指す医師はもちろん、専門医を目指す医師であっても、「総合診療医のマインドを持つことが大事」と語ります。

地域の基幹病院における総合診療医の重要性

当院は、中空知の5市5町(芦別市・赤平市・滝川市・砂川市・歌志内市・奈井江町・上砂川町・浦臼町・新十津川町・雨竜町)、人口10万人の住民の健康を預かる基幹病院です。診療科が充実し、多数の専門医が在籍しています。しかしながら、当地域は高齢化率が非常に高く、複数の診療科にまたがる疾患を持つ方が多いため、患者を総合的に診られる総合診療医は、患者さんにとっても、他の専門医にとっても心強い存在です。

当院には臨床研修医も多くいますが、研修医の教育においても、ジェネラルに診られる総合診療医が身近にいることはたいへん意義深いと考えています。

砂川市立病院

専門医にも必要な総合診療医のマインド

私は循環器の専門医ですが、私たちが育った時代は教授から「内科を広く勉強しなさい」とよくいわれたものです。まずは内科医という幅の広い土台を築いて、その上にスペシャリティを身につけていくというのが私たちの時代の考え方でした。

最近の若い先生たちと接していると、「とにかく早く専門医になりたい」という方が多いように感じます。いち早く専門領域を極めたいという向上心は良いことだと思います。ですが、なかには専門以外には興味を示さない方もいるようです。

実際に臨床の現場に出ると、例えば整形外科であっても、患者さんが糖尿病を持っていたり、高血圧だったり、ということはよくあります。
ベースに総合診療医的なマインドがあれば、それに対して自分で対処できるかもしれないし、あるいは「この症状なら○○科の先生にお願いしよう」という判断もできるでしょう。
「自分の専門じゃないから関係ない」というのでは、いくら腕があっても良い医師とはいえません。ですから私は、若い先生には「専門バカになるな」と、口酸っぱく伝えています。

砂川市立病院

総合診療科の開設により、教育面でもより貢献できる病院に

2024年4月に当院に総合診療科を開設しました。これまでは内科の一部として、木村先生をはじめ総合診療医の先生方にはがんばっていただいておりましたが、総合診療科という旗を揚げることによって当然患者さんにもメリットがあるし、なにより医学生が当院に興味を持つきっかけの一つになると思います。

専門医もいるし、総合診療医もいる。そういう環境の中で研修を受けられるというのは、教育面で当院の価値になると考えます。

訪問診療への対応。総合診療医は地域課題の解決に必要不可欠

周辺医療機関との機能分担の面では、当院は中空知二次医療圏の地域センター病院として高度急性期、急性期医療を担っています。回復期病床は持ちませんが、訪問看護ステーションを備え、訪問診療も行っています。

当院のような急性期病院が訪問診療まで行うというのは、東京や札幌のような都市部では考えづらいことかもしれません。ですが、当地域では在宅医療のニーズは高いものの、それを担う医療機関がほとんどありませんでした。
幅広く診られる開業医の先生たちが訪問できればよいのでしょうが、当地域ではクリニックの閉院が相次ぎ、医療従事者不足は深刻です。

私どもの病院では、地域のニーズに応えるため、10年近く前に在宅医療の取り組みを始めました。当初は私自身も訪問診療に出たものです。
現在は総合診療医の先生がそれを担ってくれていますが、複数の疾患を持ち、あるいは認知機能が低下し、社会的に孤立しがちな患者さんと向き合い、総合的な判断で医療提供できる総合診療医が訪問することは、患者さんにとっても、そのご家族にとっても安心感があるでしょう。

中空知地域のハブ

ゆくゆくは中空知地域のハブとなり、総合診療医を育成&派遣できる病院へ

地域においては医師の偏在が大きな問題となっていますが、当院は幸い総合診療医としての指導経験が豊富で教育熱心な木村先生がいることにより、木村先生の教えを受けたいと総合診療医を目指す医師が研修に来てくれたり、医学生が見学に訪れる流れができつつあります。

当院の教育体制が充実し、総合診療医を目指す若い先生が一定数集まるようになれば、当院がハブとなって、医師不足に悩む周辺の医療機関に総合診療医を派遣できることになるかもしれません。
若手の医師にとっても当院と地域の医療機関を往復することによって、地域医療を経験しつつ、急性期病院ならではのさまざまな疾患や医療問題にも対応しながら自己を磨いていくことができるでしょう。

そして冒頭にも述べた通り、総合診療医だけではなく、すべての科において総合診療医のマインドが大切です。専門以外の知識や技術を持つことは、目指す専門領域の診療に役立つだけではなく、患者さんからの信頼を高めることにつながります。幅広い領域への関心と、高齢患者への理解を持ち続けてほしい。そして、疾患だけではなく、患者さん自身に関心を持ち続けてほしいと願っています。

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