北の総合診療医 - その先の、地域医療へ - 木村眞司医師インタビュー

砂川市立病院
副院長 木村 眞司 ( きむら しんじ ) 医師プロフィール

木村医師

出身

北海道札幌市

略歴

  • 1989年 札幌医科大学医学部卒業
  • 1996年 米国ミネソタ大学大学院修了(修士)
  • 1996年 茅ヶ崎徳洲会総合病院
  • 2000年 札幌医科大学医学部地域医療総合医学講座(附属病院総合診療科)
  • 2005年 松前町立松前病院 院長
  • 2017年 札幌医科大学医療人育成センター教養教育研究部門 教授(英語担当)
  • 2020年 砂川市立病院 副院長

資格

  • 日本専門医機構総合診療専門医・指導医・プログラム統括責任者
  • 日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医・指導医
  • 日本内科学会認定内科医・指導医
  • 地域包括医療・ケア認定医
  • 日本地域医療学会 地域総合診療専門医
  • 日本病院会病院総合医
  • 認定家庭医(米国)
  • 認定老人科医(米国)

2024年4月、砂川市立病院に総合診療科が設置されました。
医療資源が限られた地域の基幹病院における総合診療の重要性を訴え、その開設に尽力したのが木村眞司先生です。

木村先生は北海道、ひいては日本のへき地医療の充実を目指し、長年にわたって総合診療の実践と人材育成に携わってきました。
「若い方が狭い分野に特化した専門医にひかれる気持ちはよく分かります。でも、できるだけ多くの方の、できるだけ幅広いニーズに応えることもまた医師としての喜びです。総合診療医になることで医療のプロフェッショナルとして充実した人生を送ることができるはず」と、その魅力を語ります。

院内で総合診療に対する理解を深める

砂川市立病院に赴任したのは2020年4月です。当時はまだ当院に総合診療科はなく、院内標榜という形で総合診療を行ってきました。
当院に限らず大きな病院はスペシャリストの集まりであることが多く、私たちのような総合診療医に何ができるのかを理解してもらうのはなかなか大変です。

基幹病院の総合診療医は院内に診療科がなかったり、専門医がいない場合に、その「すき間」を診る人と思われがちですが、それだけではありません。また、「最初だけ診て専門医に振り分ける人」というイメージがあるかもしれませんが、それも誤解です。

この4年半、私たちは実践を通して「総合診療医ってこういうことができるんだ」「総合診療医がいると助かるな」ということを、分かってもらうための努力を続けてきました。

砂川市立病院

超高齢社会の時代に求められる医療

私たちは外来でいろいろな患者さんを診ます。高血圧の人、糖尿病の人、大腸ポリープのある人、逆流性食道炎の人、軽いうつ病の人も診ます。多くの患者さんは継続して診続けることになりますし、専門的な知識や技術が必要な場合には専門医と密接にやりとりし、患者さんのメリットになると思えば専門医におまかせします。

総合診療医は専門的な治療や手術はできませんが、その人にどういう治療が必要か、どんな医療提供がより良いのかを、その人の家族構成や背景も考慮した上でアドバイスすることができます。例えば、手術をすれば症状はなくなるかもしれないけれど、高齢で手術のリスクが大きいとなれば、手術以外の治療方針を提案するといったように。

総合的に患者さんを診つつ、専門医ともコラボして、幅広い問題に柔軟に対処し、効率のよい医療を提供するというのが総合診療医の役割です。

超高齢社会といわれる今、多くの高齢者は同時に多くの疾患を抱えています。しかし疾患がたくさんあるからといって、一人で全部の科にかかるのは大変です。多疾患併存の患者さんを総合診療科が診ることで多剤内服(ポリファーマシー)を回避したり、患者さんの医療をコーディネートすることができます。

私が総合診療医を志した当時は、一人で多くの問題点を抱える患者さんがこんなにも存在する時代が来るとは想像もしていませんでした。あれから三十数年たち、図らずも総合診療が時代のニーズにマッチした医療となったわけです。

どんな患者さんも、どんな医療問題からも、目をそらさない

総合診療はこんなにも大切なのに、どうしてなかなか必要性を理解してもらえないんだろう。どうして総合診療医を志望する医師や医学生が少ないんだろう。私はよく、そうした残念な思いに駆られます。

たしかに、狭く先進的な医療分野を極めることの楽しさ、そこに抗いがたい魅力があることは否定しません。また、一つの医療分野を習得するだけでも大変なのに、総合診療は基本すべてですから、あまりに幅が広くて気後れしてしまう気持ちも分かります。
けれど、その幅の広さこそが総合診療のいいところで、どんな患者さんのどんな疾患に対しても、「自分は関係ない」といって断らないところに、総合診療医の矜持があります。

ただのよろず屋ではありません。幅広く診る、そしてそのことによってより多くの方の役に立つことができる。あらゆるコト・モノ・ヒトに対処できるというのは、医師として大きな喜びだと私は感じています。

砂川市立病院

総合診療医の教育の場としての基幹病院

これまでに私は、大学と病院の双方で医師の育成に携わってきました。その私からみても、基幹病院が総合診療医の育成に果たす役割は大きいと感じています。
総合診療医はよくある病気を、よく診察して、よく対処することが求められます。その点、基幹病院にはよくある病気が、よく持ち込まれるので、総合診療医の育成にもってこいです。

現在も札幌医科大学の5年生が、4週間の予定で実習に来てくれています。総合診療科はこういう外来患者を診るんだ、こういう入院患者を担当するんだ、こういう訪問診療を実践しているんだというのを実際に見て、感じてもらうことが、基幹病院の一つの役割だと思います。

大学病院は高度医療に特化していますから、そこが難しい。近年は、医学生の実習の場がだんだんと大学病院から基幹病院に移ってきていますが、大学と地域の基幹病院は車の両輪であり、緊密に連携して取り組むことが医師の育成には必要不可欠だと考えます。

総合診療に興味のある方へ

私はもともと北海道のへき地医療を充実させたいと思い、医師を志しました。医学生の頃にさまざまな医療を学ぶ中で、総合診療という分野を知り、子どもでも、お年寄りでも、ちょっとしたケガでも、心の問題でも、いろいろなことに対処できて、家族をひっくるめて継続的にケアし、治療全体をコーディネートできる総合診療こそが、北海道の田舎で役に立つんじゃないかと確信し、この道を歩んできました。
その選択はやっぱり正しかったと、今なら自信を持って言えます。

私が総合診療医を志した時代に比べ、現在は、徐々にではありますが、着実にそのすそ野が広がっています。総合診療に興味をお持ちの方は、医学生、若手医師、それからキャリアチェンジしたい医師も含め、ぜひ、このやりがいのある総合診療の世界に足を踏み入れてもらいたいと心から願っています。

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